『カウントダウン』




分かってはいる事なんだけど、やっぱりこんな日に1人は何だか少し寂しい。
1年の終わりの日。大晦日。
新しい年を迎えるその時だというのに、野分は今夜も病院で・・・俺は一人きりで晩飯に年越し蕎麦を食べた。
火にかけるだけの出来合いの蕎麦は、野分が作ってくれる蕎麦のつゆより塩っ辛くて、海老の天ぷらはもったりと重く、ちっとも旨くなんかなかった。それでも蕎麦を食わずに年は越せない気がして無理矢理に飲み込む。

特に見たい歌手もいないのに恒例の歌番組をつけて、ソファで1人ぼんやりと・・・・やたらとキラキラした画面を見つめていた。
これが終わって少しすれば、また新しい1年がやってくる。
去年と同じく、1人寝室のベットの上で、近所の寺の鐘の音でも聴きながら寝るか、とソファを立ち上がった瞬間、テーブルの上に置いてあった携帯が鳴った。

野分だ。
ディスプレイに現れたその名に、トクンと胸が高鳴る。
年越しの挨拶の為に、忙しい中電話をくれたのだ、と思うと、とても暖かい気持ちになれた。

「・・・・ハイ。」

「ヒロさん、良かった・・・・間に合った・・・。」

「年明けなら、まだ10分くらいあるぞ。」

いったい病院のどこからかけてきているのか、野分は随分息を乱していた。仕事を抜けて、どこか電話の使える場所まで走って来たのだろう・・・としか思えないような、息せき切った声。
俺の為に、急いできてくれたのだと思うと無性に嬉しかった。

「・・・・・もうすぐ・・・なんで待ってて下さい・・・・ね。」

「・・・ん?カウントダウンか?・・・・だから、まだ5分以上あるんだから平気だぞ。何急いでんだ、お前。」

「エレベーターが・・・なかなか降りて来ないんです・・・・ああっ、もう!」

「エレベーター?野分、さっきから話が読めねぇ。何言ってんだよ。」

せっかく電話くれたのに、ずっとハァハァ言いながら意味不明の事を言う野分の真意が掴めず、少しイライラし始めた頃、玄関の外でガタンと大きな音がした。

「・・・・野分、ちょっと待て。何か外で変な音したから見てくる。」

電話の向こうで急に黙り込んだ野分と電波で繋がったまま、俺は携帯を手にそっと玄関へと向かった。
ドアスコープを覗いて見ても、廊下の壁が映るだけで何も人の気配はない。

訝しい気持ちを抱きながら、そーっと内鍵を開け、扉を開けた俺は目の前に立ちはだかる黒い影にギョッと目を見開いた。

「・・・・な・・・っ!」

「・・・良かった・・・ギリギリ今年中にヒロさんに会えまし・・・た。」

思いもよらない人物の登場に声も出ない俺を、野分は玄関の中に押し込むと、そのまま強引に口づけてきた。

ドアを開けっ放しの奥のリビングから、テレビの音が漏れ聞こえてくる。
テレビタレント達の陽気な声が、カウントダウンをしているのがとてもよく聞こえた。

『5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・・・A HAPPY NEW YEAR!!・・・・おめでとうございますーー!!。』

玄関の靴脱ぎに立ったまま、口の中を舐め回す野分の舌にゆるく歯を立てた。
嬉しい、嬉しい、すげぇ嬉しい。
考えていた以上に、俺は今・・・野分に会いたかったんだなって自覚させられて・・・悔しいけど、それの何倍も嬉しかった。

せわしなく背中をかき抱く腕。
外の冷気をまとった野分の冷えた体が、こんなにも愛おしい。

「・・・ヒロさん、明けまして・・・おめでとうございます。」

「明けましておめでとう。・・・んで、おかえり。」

「ただいまです。」

除夜の鐘の音が遠く響いている。
今年は布団の中で1人孤独に、この音を数えたりしない。

今年も二人に幸多い一年でありますように。
次第にあたたかくなっていく腕の中で、俺はそっとそんな事を祈った。

 ◇ おわり ◇



 カウントダウン    2009/12/31 大晦日  掲載
   



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