『雨宿り』


『雨宿り』


野分が病院でお世話になった看護士さんが結婚&出産の為に退職する事になり、そのお祝いを贈るのに一緒に見てくれと言うので、俺の仕事の終わる時間に大学で待ち合わせ、野分と二人普段あまり用の無いデパートにやって来た。

ベビー用品を扱うフロアはどこもかしこもパステルカラーで統一されていて、ただでさえ悪目立ちしそうな男二人連れ(しかも俺は仕事帰りなのでスーツ+スプリングコート姿。野分は休みで家から来たから、ラフなパーカー+ジーンズ姿)は「近寄るな」オーラでも出ているのか、少々強引な接客が常な従業員達が遠巻きに様子を伺っているのがムカつく。

「ヒロさん、これなんかどうですかね。」

野分が手にとったのは、白を基調としたベビー服と帽子、靴下、タオル製のラトルがセットになったギフトだった。

「うーん・・・悪かないけど、1日の殆ど寝てる赤ん坊に帽子や靴下って無駄じゃね?それにその白のレースふりふりって好み分かれそうだな・・・。」

「そうですか。まあ確かに、このレースはやり過ぎですね。白とはいえ男の子だったりしたら可哀想かもしれません。でも帽子や靴下、実用的じゃないけど、こんなに小さいのにちゃんとその形していてミニチュアみたいで可愛いです。」

確かに、売り場に並ぶ衣類も靴も食器類にいたるまで、どれも小さく作られていて、ガリバーとまではいかなくとも、トルストイの「3匹のくま」に出てくる一番小さいくまの持ち物みたいだなと思う。

結局俺の選んだものがいいと言い張る野分の意見で、淡いグリーンと生成りでデザインされたシンプルなベビー服とコットンのおくるみがセットになった物を購入した。見本で置いてあったおくるみが、三重構造で防水なのにめちゃくちゃ軽くて、肌にあたる部分はガーゼでふわふわで、あまりにも気持ちよくてべたべた触っているところを妙にニコニコした野分に見つかって、それに決められてしまったのだ。
とろけそうな顔して「ヒロさん、それが気に入ったんですね。それに決めましょう。」なんて囁かれて、デパートの売り場だっていうのに、背中がぞくっとしてしまった。だからこんな場所で男二人で雰囲気出してんじゃねぇ!って話だ。

買った贈り物は熨斗つけてラッピングしてもらった後、配送にしてもらって、無事に買い物は終了。何とかデパートの閉店時間に間に合って良かった。

せっかくだし、メシでも食ってから帰ろうか、と言いながら野分と二人歩いていると、ぽつぽつと雨が落ちてきはじめた。どこかで雨宿りでも・・・と思う間もなく、一気に本降りになってしまう。

「うわ・・・酷い降りですね。スコールみたいだ・・・。」

「野分、お前わざわざ濡れてないで、こっちの軒に入れ。風邪ひくぞ。」

これぞゲリラ豪雨といった様相の突然の雨で、みるみる間にアスファルトは水の行き場をなくし、排水溝から泥水を吹き出させている。これじゃあ地下鉄で帰るのは諦めた方が良さそうだ。

閉店間近だった道沿いのショップは次々とシャッターを下ろし始め、高級ブランドショップが立ち並ぶこの街では、びしょ濡れの男二人を受け入れてくれるレストランなどありそうにない。
仕方なく雨宿りには狭い小さな路地の軒下で、どうしてもはみ出す野分は肩を雨で濡らしながら降り止まない雨空を見上げた。

こういう雨に出くわすと、いつも野分は少し悲しそうな表情をする。
それはある日を境に始まった事で、俺は分かっているけど何も言わない。

いつまでも気にしてんじゃねぇよ。ばかだなぁ。

焦点の定まらない目で雨を見つめる野分の手をぎゅっと握る。雨に濡れて冷えたせいか、いつも温かい手のひらが今日は冷たかった。

黙ったまま並んで雨を見つめている俺の手を野分が握り返してくる。

お前にとっては辛い記憶なのかもしれないけれど、俺はあの日お前が必死になって追っかけて来てくれなかったら・・・と想像する度、ぞっとするんだ。
お前はなりふり構わず俺を追いかけて来てくれた。
だからこそ、今俺達はこうして二人寄り添っていられるのだろう。

夜の雨を見る度、俺の胸の中はあたたかい気持ちでいっぱいになる。

漆黒の天から降り注ぐ雨粒はお前がくれる愛情のようで、いつまでもいつまでもこうして見上げていたいと思ったんだ。


 ◇ おわり ◇


お題提供
『みんながヒロさんを愛してる』同盟様


最悪のデート でした。

2009年6月1日



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