『足』

『足』

 

「ヒロさん、起きて下さい。」

眠っている大好きな人にそう声をかけた。
今は朝の6時半・・・だいたいこの時間になったら声をかけ始める事に決めている。
寝起きの悪いヒロさんを完全に起こすには、だいたい40分くらいは必要で、スヌーズ機能よろしく、こつこつと5分おきに声をかけ続け、で、ヒロさんからの返答があるのが、やっと30分も過ぎたあたりから・・・という感じなのだ。

大きい声を出すとか、体を揺さぶるとか、すぐに起こす方法が無い訳ではないのだけれど、そんな無茶をしたら、確かにヒロさんは起きるけど、動悸が大変な事になって、顔色は真っ青、声にならずに口がぱくぱくして、その後も胃が痛くなったり頭痛がしたりと、それは可哀想な事になってしまう。せっかくゆっくりと寝て、目覚めたというのに、起きる事でへとへとなんて気の毒過ぎるので、この暢気な朝の起こし方は、言うなればヒロさんの体質に合わせて俺が編み出したベストの方法なのだと自負している。

「ヒロさん、朝ですよ。」

俺のベッドで、俺の枕を抱き締めるようにして、それは穏やかな顔をして眠るヒロさんを見ていると、本当はずっとこうして寝顔を見ていたい気になってしまう。

伏せられた睫毛は長く、まっすぐに通っているけど主張しすぎてない鼻梁、ほんのりと桜色に染まった頬、柔らかな唇・・・どうしてヒロさんは、こう何もかもきれいで可愛らしいもので構成されているのだろうとしみじみ思う。

昨日は俺の帰りが遅くなってしまって、日付が変わるギリギリに家に帰ってきた時には、すでにヒロさんは夢の中だった。

俺のベッドの中で、読みかけの本を持ったまますやすや眠っている彼の姿を見て、俺はさっきまで足を引きずる程重かった体が急に軽くなった気がした。
俺の帰りを待っていてくれたんだろう、あどけない寝顔に思わず頬が緩んでしまう。
起こさないよう小さな声で『ヒロさん・・・ただいま』とその寝顔に声をかけて、そおっとヒロさんの可愛い半開きの唇に自分の唇を重ねたのだった。

「ヒロさん、早く起きないと・・・遅刻しますよ。」

まだまだヒロさんは俺の声に反応しない。
睫毛がほんの僅かに揺れたように見えたが、それきりまた動かなくなってしまった。

こんなに起きられないのに、俺が居ない日にはちゃんと一人で起きて仕事に行ってるんだよな。

それがとにかく不思議なのだ。
俺が夜勤などで居ない時、ヒロさんは誰にも起こされず一人で起きられる。
しかも目覚まし時計をたくさんかけるとか、そういう努力も見られず、枕元の充電器に置かれた携帯のアラーム音だけで起きているようなのだ。

その事実を知った時、ちょっと衝撃だった。
それじゃあ、俺が毎朝している事って何なのだろう・・・と。
でも
最近はちゃんと分かる。

ヒロさんは俺が居る朝は、俺に甘えていたいんだって事。
本当はもっと早く、頑張れば起きれなくはないのだけれど、夢と現とをゆらゆら行ったり来たりしながら俺の声を聞いて、俺に頬や髪を撫でられて、『眠い』と抱きついたり、ごねてみたり・・・そんな一連のしぐさも全て、俺に甘えたくてやっている事ならば、こんなに嬉しい事はない。

「ヒロさん・・・いつまでも起きないと、襲っちゃいますよー。」

わざとふざけて低い声でそう囁くと、眠っているヒロさんの肩がぴくっと揺れる。

慌てて起きてくるかな? と思ったら、そのまままた動かなくなってしまった。そうか、これは襲って下さい、という承諾のポーズだな。

布団の端をめくりあげ、ヒロさんの横に体を滑り込ませる。
もちろん昨日も同様に体を寄せ合い、抱き合って眠ったんだけど、ヒロさんのぬくもりが残る布団はそれはそれは魅力的で、このまま一緒に眠りなおしてしまいたくなるのが少々やっかいだ。

「おはようございます。」

そう言いながら、頬と唇にキス。

こうなってくると、俺はヒロさんを起こしに来たはずなのに、まだ起きないで下さい・・・なんて思う自分に苦笑いする。

少し開いたパジャマの胸元に唇を落としながら、その腰を引き寄せ、足を絡ませた。
滑らかな鎖骨を唇でなぞって、柔らかい喉元を軽く甘噛みする。

「ん・・・ふぅ・・・。」

微かに漏れるヒロさんのため息が愛おしい。

あんまり調子にのって、朝から止まらなくなってしまってはヤバイから、何とか自制心を働かせながら、ヒロさんの首や襟元まわりだけに限定して愛撫を加えていく。

指先でうなじを撫でて、耳たぶを唇で喰むと、その肩が小さく震えた。

「ヒロさん、起きてくれないと、もっとスゴイ事しちゃいますけど、いいですか。」

多分もう完全に寝たふりをしている彼にそう話しかけ、布団の中に手を突っ込んでパジャマのゴムを持ち上げた瞬間・・・・

「バカっ・・・起きたっ・・・起きたからっ!ストップ、ストップ!! こらっ野分!お前どこ触って・・・!」

慌ててベッドに起き上がった慌て顔の彼を、ぎゅっと抱き締め、俺はもう1度改めて「おはようのキス」を彼にプレゼントするのだった。

 

 ◇ おわり ◇

 

お題提供
『みんながヒロさんを愛してる』同盟様

足→絡ませる でした。

5/23



BACK

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル