『足』 |
『足』
「ヒロさん、起きて下さい。」 眠っている大好きな人にそう声をかけた。 大きい声を出すとか、体を揺さぶるとか、すぐに起こす方法が無い訳ではないのだけれど、そんな無茶をしたら、確かにヒロさんは起きるけど、動悸が大変な事になって、顔色は真っ青、声にならずに口がぱくぱくして、その後も胃が痛くなったり頭痛がしたりと、それは可哀想な事になってしまう。せっかくゆっくりと寝て、目覚めたというのに、起きる事でへとへとなんて気の毒過ぎるので、この暢気な朝の起こし方は、言うなればヒロさんの体質に合わせて俺が編み出したベストの方法なのだと自負している。 「ヒロさん、朝ですよ。」 俺のベッドで、俺の枕を抱き締めるようにして、それは穏やかな顔をして眠るヒロさんを見ていると、本当はずっとこうして寝顔を見ていたい気になってしまう。 伏せられた睫毛は長く、まっすぐに通っているけど主張しすぎてない鼻梁、ほんのりと桜色に染まった頬、柔らかな唇・・・どうしてヒロさんは、こう何もかもきれいで可愛らしいもので構成されているのだろうとしみじみ思う。 昨日は俺の帰りが遅くなってしまって、日付が変わるギリギリに家に帰ってきた時には、すでにヒロさんは夢の中だった。 俺のベッドの中で、読みかけの本を持ったまますやすや眠っている彼の姿を見て、俺はさっきまで足を引きずる程重かった体が急に軽くなった気がした。 「ヒロさん、早く起きないと・・・遅刻しますよ。」 まだまだヒロさんは俺の声に反応しない。 こんなに起きられないのに、俺が居ない日にはちゃんと一人で起きて仕事に行ってるんだよな。 それがとにかく不思議なのだ。 その事実を知った時、ちょっと衝撃だった。 ヒロさんは俺が居る朝は、俺に甘えていたいんだって事。 わざとふざけて低い声でそう囁くと、眠っているヒロさんの肩がぴくっと揺れる。 慌てて起きてくるかな? と思ったら、そのまままた動かなくなってしまった。そうか、これは襲って下さい、という承諾のポーズだな。 布団の端をめくりあげ、ヒロさんの横に体を滑り込ませる。 「おはようございます。」 そう言いながら、頬と唇にキス。 こうなってくると、俺はヒロさんを起こしに来たはずなのに、まだ起きないで下さい・・・なんて思う自分に苦笑いする。 少し開いたパジャマの胸元に唇を落としながら、その腰を引き寄せ、足を絡ませた。 「ん・・・ふぅ・・・。」 微かに漏れるヒロさんのため息が愛おしい。 あんまり調子にのって、朝から止まらなくなってしまってはヤバイから、何とか自制心を働かせながら、ヒロさんの首や襟元まわりだけに限定して愛撫を加えていく。 指先でうなじを撫でて、耳たぶを唇で喰むと、その肩が小さく震えた。 「ヒロさん、起きてくれないと、もっとスゴイ事しちゃいますけど、いいですか。」 多分もう完全に寝たふりをしている彼にそう話しかけ、布団の中に手を突っ込んでパジャマのゴムを持ち上げた瞬間・・・・ 「バカっ・・・起きたっ・・・起きたからっ!ストップ、ストップ!! こらっ野分!お前どこ触って・・・!」 慌ててベッドに起き上がった慌て顔の彼を、ぎゅっと抱き締め、俺はもう1度改めて「おはようのキス」を彼にプレゼントするのだった。
◇ おわり ◇
お題提供 足→絡ませる でした。 |
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