『微熱のころ』  〜雨傘〜




『微熱のころ 第29話 〜雨傘〜』


学校から帰ってきて、5分もしないうちに窓の外が急に暗くなった気がして窓越しに空を仰ぎ見れば、いつの間にやら真っ黒な雨雲が天を覆っていて驚く。帰りに本屋に寄って帰ろうかどうしようかと思案した挙げ句、今日は鞄の中に読みかけの文庫もあるし、学校の図書館で借りた本もあったからいいか、と寄らずに帰ってきたのは正解だったな・・・と思った。
案の定、ぽつぽつと窓を叩き始めた雨音は、あっという間に酷い降りになって、電灯をつけていなかった部屋は夜のように暗くなってしまう。

朝の天気予報では、曇りの予定だったのに・・・と、そこまで考えてふと野分の事を思い出した。
玄関に靴は無かったから学校からまだ帰って来ていないはずだ。

「あいつ・・・傘は・・・・。」

制服も着替えずに俺は階下へと降りると玄関の収納の扉を開けた。
やっぱり。
そこには野分の黒い雨傘が置かれたままになっていて、あいつが傘を持たずに学校に行った事を示していた。

塾にも行かず、部活動もしていない(そう言えばあいつが友達を家に連れてきたのも見た事がない)寄り道もしない野分は、学校から家まで徒歩20分、濡れ鼠になっているはずで・・・そう考えたら居ても立ってもいられなくなって、俺は自分の空色の傘と野分の黒い傘を掴んで、土砂降りの雨の中外へ出た。

急な降りだった為だろう、歩いて行く途中何人も傘を持たずにずぶ濡れだったり、店先で立ち往生している人を見かけ、気持ちだけが急いてしまう。一応最短距離を歩いているつもりだけど、もし野分が違う道から帰ってきていたらどうしよう。

そう思いながら角を曲がった先、中学校近くの小さな文具店の軒下に、見慣れた大きな体を見つけた。
つい数日前から冬服に変わって、黒い学ラン姿の野分は少し背を丸める様にして誰かと話をしている。

「あ・・・・。」

野分に話しかけていたのは、いつか見かけたショートカットの彼女で、ピンク色の傘をさしていて遠いせいか俺の位置からでは表情までは読み取れなかった。

何だ・・・心配して損をした。
可愛い彼女と相合い傘して帰るつもりか。

そう思って来た道を引き返そうかと考えた瞬間「じゃあね、草間くん。」という女の子の声が聞こえ、ピンクの傘が立ち去って行った。

あれ・・・一緒に帰らないのか?あいつ・・・。

解せなくて、ぼんやりと野分を見つめてその場に立ち尽くしていると、ふいに野分が軒下を出て土砂降りの中こちらに向かって歩き始めた。それを見て俺は慌てて野分に向かって駆け出す。

「野分!バカ何で出て来るんだよ。せっかく迎えに来てやったのにびしょ濡れじゃねーか!」

「・・・ヒロさんの姿が見えたので・・・。」

「こんなに濡れて、風邪でもひいたらどーすんだ!俺が見えたんなら尚更濡れない所で待ってろ。」

俺の傘の下でほんの少し嬉しそうに眦を下げた野分は、長い前髪から水を滴らせている。
こうやって並んでみると、やっぱりこいつ背が高くなった。

「・・・・帰るぞ。ほら、お前の傘。」

「ありがとうございます。」

野分が自分の傘を開いたのを確認すると、俺は先に歩き出す。
歩道は狭いから並んでは歩けない。
背後からついてくる野分の気配を感じながら、俺は雨の中家路へと向かった。




「待ってろ。タオル持って来てやるから。」

玄関で濡れた靴下を脱いだ俺は、三和土に野分を残して脱衣場にバスタオルを取りに行く。母親は買い物にでも出かけているのかまだ帰って来てないようだった。

脱衣場の整理棚の中から乾いたバスタオルを引っ張り出し、びしょ濡れの野分に手渡す。

「どうせなら風呂にでも入るか?体冷えただろ。」

「いえ、拭くだけで大丈夫です。すみません・・・・ヒロさんも濡れちゃいましたね。制服・・・ズボンの裾びしょびしょです。」

「・・・ああ、これな。吊しておけば明日の朝には乾く。」

野分の学生鞄を拭いてやっていると、家の奥で電話が鳴っているのに気がついた。急いでリビングにある電話を取る。

「・・・はい、上條です。」

『ああ、ヒロちゃん。お母さんね今、お友達の家にお邪魔しているんだけど、雨があんまり酷いから、夜お父さんが迎えに来てくれるまでこちらで待たせてもらおうと思っているの。だから夜までのわちゃんと留守番していて頂戴。お腹が空いたら自分達で何か作って適当に食べておいてね。』

「・・・分かった。俺らは適当にしてるから、お母さんはゆっくりして来たらいいよ。」

『そう?助かるわ〜。じゃあ、のわちゃんにもよろしくねって言っておいて。』

「ハイハイ。」

受話器を戻した後、バスタオルを頭から被った野分が、リビングへと顔を出した。


 ◇ 続く ◇




『微熱のころ 第30話 〜雨傘〜』


「きちんと拭いておけよ。まだ髪の毛から水落ちてるじゃねーか。」

数歩自分から歩み寄ってバスタオルを取り上げると、少し背伸びをしてその濡れた黒髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。野分は俺からされるがまま、少し体を屈めてじっとしている。

さっきの電話の内容を聞かれただろうか。
あの感じだと、母は多分もう数時間は帰って来ない。
ただそれだけの話に過ぎないのだけれど、それを俺が口にすれば、暗に2人きりだと、ベッドに誘っているように聞こえはしないだろうか・・・と変な心配が胸に湧いてくる。

自分でも意識し過ぎている・・・という自覚はあった。
野分はきっと2人きりになる度に触れあいたいと思う程、自分を求めてなどいないという事も分かっている。

触れられたい、抱かれたい、一緒に居られる時間があるのならばその間ずっと求められていたい・・・そう願うのは俺1人の欲で、一方通行の想いだ。今こうして濡れた頭を拭いてやりながらもその胸に飛び込みたい、強く抱き締めて欲しいと思う俺のみっともない感情を知られたくなくて眉間に力を入れる。

これまで読んで来た物語の世界では、恋とはとても素晴らしいもので、何にも代え難く、人を喜ばせ、成長させる・・・そういうものであったはずなのに、どうして実際にはこんなに独りよがりで、惨めなのだろう。

「さっきの電話・・・お母さんですか?」

「え・・・あ、ああ、うん。母さん。友達の家で雨宿りしていて止むまで帰れないから、夜父さんに迎えに来てもらって帰るから適当に何か作って食べろってさ。」

「先に食べておけって事は、母さん・・・父さんと2人でディナーを食べて帰るつもりなんでしょう。」

「・・・・あ、そうなのか。考えてなかった。」

「多分そうです。雨にかこつけてお父さんとデートしたいんですよ、お母さん。」

「ふーん・・・野分はよくそういうの気がつくな。俺は、野分に何を作ってもらって食おう、ってそれしか考えてなかった。」

俺の言葉に野分が小さく吹き出す。
それまで2人の間に張り詰めていた緊張感がふわっと緩んだのが感じられて、俺は正直ほっとする。

「いいですよ。ヒロさんは何が食べたいですか?」

「簡単なものでいいんだけどな・・・普段自分で作らないから、何が簡単に出来るのかよく分かんねぇ。」

野分は台所に行くと、冷蔵庫や野菜ストッカー、炊飯器の中を次々に覗いて見ていた。

「ジャーにご飯の残りがあったから、炒飯かチキンライスにしましょうか。それならすぐに出来ます。」

「だったら俺、オムライス食いたい。」

口にしてから、しまった、子供っぽかったかと気付いたけれど、もう遅い。
にこっと笑った野分は「いいですよ。」と答えて制服のシャツの袖を捲った。




野分の作ってくれたオムライスはふわふわしていて、卵が少し甘くて、母さんがいつも作るそれよりずっと美味かった。
いつもの夕飯の時間よりずっと早い時間だったのに、少し大きめのオムライスをぺろりと平らげてしまった俺を見て野分が嬉しそうに笑っている。

こうしていると、お互い気まずくなる以前の・・・兄弟として暮らしてきた頃の日々に戻ったようで、どこか切ない気持ちになってくる。

初めて体を繋ぎ合った翌日、野分は俺に「昨日の事はお互い無かった事にしよう」とハッキリと言った。
それは野分自身、そうなった事を後悔しているせいだと思ったし、これから先もうこんな事はしない、という意思表示なのだと俺は受け取った。
野分が先に言い出さなければ、それを口にしたのは俺の方だったかもしれない。
間違いを犯した後であっても、自分の欲に野分を巻き込んでしまうのは嫌で、まだ後戻りが可能なのであれば、野分1人でも元の世界に戻してやりたいと思ったのは確かなのに、俺は野分からそれを告げられた時、とても傷ついたのだ。

いまさら無かった事になんか出来ない。

あの熱い体を知って、燃える様な声で名前を呼ばれて、こんなにも溢れてやまない想いにどうやって蓋をすれば良いのだろう。

野分が好きで、好きで、好きで・・・・・

だから、意志に反して流されるみたいにその後も、結局無かった事に出来るどころか、さらに何度も何度も罪を重ねて、行為に慣れていくと共に深みにはまっていく自分達の姿に、罪悪感とほんの少し安心している自分がいる。

どんな形でもいい、傍にいたい。

空っぽになった皿に視線を落として俯いた俺の頬に手を添えて上向かされると、その後、ゆっくりと野分の唇が重ねられた。


 ◇ 続く ◇




『微熱のころ 第31話 〜雨傘〜』


キスは好きだ。
深く舌を絡められて性感を高められる時もあるけれど、口と口が触れあうその行為は俺をとことん安心させてくれる。
幼い日々、怖い夢を見た時、雷の鳴った夜、不安な気持ちをいつも諫めてくれるのは、優しくて気持ちのいい野分のキスで、これからはそれに頼れないと知った時、俺は急に自分が弱くなってしまった気がした。2人なら越えられた不安な夜も1人じゃいつまでも明けなくて心細い。

出口の無い俺の想いも、こうして野分と唇を重ね合っている間は思考が止まる。
気持ち良くて、胸の中がぽかぽかと暖かくなって・・・。

無意識に野分の服の胸のあたりを掴んでいた俺の手の上から野分の手が重ねられる。
そのまま巻き込まれる様に抱きすくめられて、俺はその腕の中でやっと息を吹き返す。
良かった。まだ野分は俺を見捨てずに触れてくれた。
自分からも腕を伸ばして、その背中を抱き返せば、野分の唇がほんの少し揺れる。

「ヒロさ・・・ん・・・。」

「雷が・・・。」

「え?」

「止むまででいいから・・・。」

そう言って抱き締める腕に力を込めれば、ちらりとリビングの掃き出し窓に視線をやった野分が納得した様に俺の背中をぽんぽんと撫でた。

雨音は激しさを増し、遠く雷鳴が響いている。

「俺の部屋に来ませんか?」

艶っぽいその声に抗えるはずもなく、返事の代わりにその胸の真ん中にそっと顔を埋める。





雨の音も、雷鳴も、稲光も、一般世間のモラルからも、遮断してしまうカーテンを引けば、ベッドの上、服を全て剥ぎ取られた俺は灯りを落とした部屋の中で、野分を待っていた。

キイ、というパイプベッドの軋む音がして、あたたかな重みが冷えた肌を包む。

「野分・・・・。」

その広い背中に腕を回しながら、そういえばこういう事をするきっかけになったのも、酷い雷雨の日だったと思い出す。
彼女らしき少女と一緒にいる野分を偶然見かけて、何故かそわそわムカムカと落ち着かない気持ちを持てあました挙げ句、自分から誘う形でキスをねだった。
兄弟として幼い日に交わし合っていた親愛のキスとはまるで違う意味の口づけを。

もうすっかり硬くなってしまっている野分自身に擦られて、俺のものもすぐに反応を返し始める。
だけど、野分はすぐにはそれに触れてはこず、胸のしこりに唇をつけてきた。

「・・・ぅあ・・・あ・・・。」

乳輪全体を唇で覆って、ちゅうっと強く吸われると、それだけで体が跳ね上がる。
もう片方を指先で抓んだり擦ったりしながら、音を立てて吸い付かれ、堪らずに俺は目の前にある野分の髪を掴んで掻き乱した。

「あっ・・・いや・・・・ンンッ・・・・ん・・・。」

野分が唇を離せば、強く吸われた側の乳首は赤く色づいてふっくらと勃ち上がっていて、野分の唾液に濡れていやらしく光って見える。
恥ずかしさにきつく目を閉じれば、今度は逆側を口に含まれた。
吸って舐められて敏感になっているそこを指で押しつぶすみたいに擦られて、抑えきれずに甘い吐息が漏れる。

「・・・・の・・・のわ・・・。」

まだほんの中学生で、セックスの知識なんて殆ど無かったくせに、野分は回数を重ねるごとに俺の体のイイ箇所を覚え、的確にそこをついてくる。
啼いてやめて欲しい、と言った場所ほど執拗に責められて、ぐちゃぐちゃに乱されて何も考えられなくなるまで・・・。

「野分・・・もう、ほし・・・。」

「まだだめですよ。全然解してないんだから・・・。もうちょっと我慢していて下さい。」

野分は体を下方へとずらしていくと、俺の両脚を肩に抱え上げた。シーツから腰が浮き上がり、奥まった場所に野分の息がかかる。

「あ・・・イヤ・・・・。」

尻の肉を割り拡げられる指の感触と同時に、濡れた舌が奥に触れ、俺は小さく喘いだ。




 ◇ 続く ◇


『微熱のころ 第32話 〜雨傘〜』



窓の外、雨音が酷くなっているらしく、サッシに叩きつけられる雨風がゴウと唸って窓枠を揺らした。

いつもは触れられるだけで嵐の様に胸の中が騒ぐ野分との行為なのに、今日は空模様に反して心は凪いでいて、不思議な心地を感じていた。

多分、俺は単純なんだ。
傘を持った俺と、同じく傘を持った彼女が目の前にいて、こいつが俺の方に駆けてきてくれた。
そんな些細な事がこんなにも嬉しい。

野分がこうして傍に居て、抱いていてくれるのならば、ずっと雨も雷も止まなければいいのに。そうすれば俺は雷のせいにして、ちょっとだけ素直になれるから。

「あっ・・・そこ、ヤダ・・・ひゃ・・・・。」

反射的に閉じようとする足を押し開かれ、奥の窄まりを指先でこじ開け濡れた舌を差し入れられる。これだけはいつまでも慣れなくて、野分の頭を必死に押し戻そうとしているのに、すごい力で抱え込まれていてびくともしない。

「・・・や・・・舐めんな・・・・。」

両脚を掬われている為に半分宙に浮いた様な状態で、どこにも踏ん張る事が出来ず、逃れようと腰を捻れば返って誘ってるように見えてどうしようも無かった。

「ヒロさんの、嫌、はもっとして欲しいように聞こえます・・・。」

「バカな事言うなっ・・・ふ・・・うあ・・・アアッ!」

「ここだって、指で弄るより舐めた方がヒクヒクしてて・・・。」

「言うなぁ!・・・・やっ・・・ああっ・・・・!」

唾液でたっぷりと濡らされたそこに指を差し入れられ、内側を抉る様に掻き回されて、俺はあまりにも呆気なく自らの腹の上に吐精してしまう。

「ヒロさんは、恥ずかしい方が感じるのかな。部屋が明るい時の方が早くイッちゃう事多いし。」

「・・・るせ・・・。」

飛び散り肌を濡らした飛沫を啜り、舌できれいに舐めとった野分が、体内に挿れる指を2本に増やす。
内部でそれぞれバラバラに動き回る指に何度も弱い箇所を掻かれて、堪えきれない強い快感に必死で野分の体に縋り付いた。

「あっ・・・ア・・・も・・・野分ィ・・・・。」

指よりも確かなものが欲しくて訴えれば、俺の手をとって野分の昂ぶりへと導かれ握らされる。
手の中のものは限界まで張り詰めていて、丸みを帯びた先端の割れ目に指を辿らせれば、とろりとした粘液が滲み出ていて俺の手を濡らした。

「・・・あれ、した方がいいですか?」

唐突な問いに何のことだ、と一瞬悩んだ後、すぐに避妊具の事だと思いつく。後始末やその後の自分の体を思うとさせた方がいいのは分かってはいたけれど、それを取りに隣の自室まで戻る気は起こらなかった。

「・・・いい。今日は・・・いらない。」

「ヒロさん・・・・!」

俺は手の中の野分自身を数回上下に擦ると、自ら体を反転させて四つん這いになった。
それを待ち構えていた様に野分は俺の腰を引き寄せると、いきり立ったものの先端を柔らかくとろけた狭口へと押し当てる。

「力、抜いて・・・。」

ゆっくりと体を開かれていく感覚。
少しでも受け入れやすくなるようにと、膝を開いて腰を高く上げる。
野分の熱い塊がジリジリと躰を焼きながら、体内の奥深く潜り込んできた。

「・・・はぁ・・・はっ・・・ヒロ・・・さん・・・・・。」

俺の中に全てを収めきった野分が大きく息を吐き出す。

体を埋め尽くす痛みと、それを上回る悦び。
繋がり合った箇所がひどく・・・熱い。

背中を包み込む野分のあたたかい体。

「ヒロさん・・・ヒロさん・・・。」

内部が馴染んでくるのを待って、そっと野分が腰を引く。ズルリと粘膜が擦られる感触にきつく瞼を閉じれば、背後から伸びてきた大きな手のひらに、シーツを強く掴んだ手をぎゅっと握られた。

「ああ・・・ン・・・ンンッ・・・・・。」

引き抜かれ、押し込まれる。
擦られ、繰り返し突かれて、僅かに残っていた理性の欠片が、唇からため息と共に零れ落ちていった。


 ◇ 続く ◇




雨傘 2009/10/09〜  連載中
   


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