『抱き枕』 |
明け方近く、ふいに肌寒くて目が覚めてしまう。 ついこの間まで暑くて寝苦しくて、クーラーが手放せなかったのが嘘のようだ。 俺は毛布と羽毛布団を肩まで引っ張り上げ、それでもまだ寒くて、もぞもぞと体を移動させる。ほんの数センチ先にあるのは大きくて暖かい俺専用抱き枕。夏の間は暑くて鬱陶しいばかりだったが、この季節は大変重宝する。 俺の抱き枕のくせして何で俺に背中向けて、しかも丸まって寝てやがんだよ、こいつ。 少し思案した後、その丸まった背中にしがみつくみたいに、脇の下に冷えた手を突っ込み、両足の間に同じく冷たくなった自分の足を突っ込んだ。挟まれた手足がほこほこと暖かくなって悪くないけど、これだとどうにも背中が寒い。 ったく・・・・もうちょっと寝方どうにかなんないのかなーこいつ。 気持ち良く眠っていたら、脇やら膝やらの隙間に、冷たい何かが差し込まれた。 ヒロさんだな。 寝付く時には、手足が熱くなってしまうみたいで(子供みたいだ)どんなに寒い日でも布団の端っこを蹴り上げて寝てしまうのに、こうやって寒くなってくると必ず俺にくっついてきてくれる。 脇の間からちょこんと覗く可愛い指先を見下ろしながら、とても幸せな気持ちを噛みしめた。 すぐに振り返って体ごと腕の中に抱き込んで暖めてあげたいのだけれど、寝ている俺を起こさないように、そして自分もなるだけ動きたくなくてこういう可愛らしい事をするヒロさんの行動があんまりにも愛おしくてつい俺は眠ったふりをする。 ああでも限界。やっぱり正面からぎゅって抱き締めたい。 ちょっとずつ温もっていく手足が気持ちよくてもぞもぞやっていたら、目の前の大きな山が突然動き出した。 起きたのか?抱き枕。 そーっと後ろから手足を抜き取ると、目の前の山がごろんと寝返りをうって、俺の方を向いた。顔を見ると目は閉じたままで、別に起きた訳ではないらしい。 眠ったまま野分は器用に俺を引き寄せて、その腕の中に抱き込んでしまった。望んでいた通り背中まで暖かくなって、嬉しさにその胸へ額をすり寄せる。 気持ちいいなぁ。 暖かいなぁ。 どんなに高級な布団でも、最新式の暖房器具でも、こんなに気持ち良くはないだろう。 しかも俺専用。 日によって、あったりなかったりするのがちょっと問題だけど、それもまあ一緒の時により嬉しいと考えるといいかなって思わなくもない。 寝ぼけたふりをして寝返りうって、白々しいかな・・・なんて思いつつヒロさんを腕の中に抱き込んでしまう。 パジャマの背中が少し冷たくて、早くこうしてあげれば良かったなとさっきまでの自分を少し悔いてみたり。 すっぽりと俺の腕に収まってしまう華奢な体をやんわりと抱き締めれば、ヒロさんがすり寄るみたいに俺の胸におでこをくっつけてきた。 可愛い。 なんて可愛いんだろう。 あまりの可愛らしさにぎゅっと力いっぱい抱き締めたくなるけれど、それをやるとせっかくこんなにくっついてきてくれているのに怒って離れられたら困るので、ぐっと我慢する。 柔らかいヒロさんの髪の毛に鼻先を埋めて、気づかれないようにそーっとその薫りを楽しむ。 いい匂い。 大好きなヒロさんの匂いだ。 暖かくて、嬉しくて、気持ちよくて・・・・そんな幸せに浸っていたら、困った事に下半身まで気持ちよくなってきた。 抱き枕・・・というより、この状態はあれか?抱き締め枕?違うな・・・・むしろ抱き枕にされているのは俺か? そんな事を考えながら、野分の腕の気持ち良さに満足していると、密着した体の間に何か異物感を感じた。 俺の太股のあたりにぐりぐり当たってるこの硬いものは・・・・・? だいたい想像つきつつも布団の中を覗いてみると、そこには案の定パジャマの前を押し上げて大きくなってしまっている野分の股間が・・・。 「野分、お前・・・寝てないだろ。」 「・・・・・ハイ。寝たふりしてました。」 悪戯がバレた子供みたいな笑顔で俺に笑いかける野分の顔を見れば、寝たふりも、咎める気にはならない。 「どーすんだ、こんな時間にこんなにして・・・。」 「さあ、どうしましょう。ヒロさん助けて下さい。」 「寒いから俺脱ぐのヤダぞ。」 そんな言い方したら、ガンガンに暖房たかれて裸にむかれる事になっちゃわないか・・・と心配になって上目使いに野分の顔を見ると、さすがに平日の明け方に無体な事をしようとは考えてなかったみたいで、ちょっと眉を下げて困った顔のまま、じっとしている。 「もー・・・仕方ねぇなぁ。1回だけヌイてやるから・・・。」 暖かい布団の中ごそごそと手探りで野分のパジャマと下着を太股あたりまでずらして、うっかり元気になってしまった野分のものを両手で握り込む。 すると、何を思ったか野分もごそごそと俺のパジャマを引っ張って同じように下着ごと引き下ろすと、萎えたままの俺のものを握り込んだ。 「・・・何いらん事してんだ。」 「お返しです。ヒロさんも気持ちいい方が俺も気持ちいいですし。」 「いいよ別に。俺は勃ってる訳でもないし・・・。」 「大丈夫、すぐ元気にしてあげますから。」 布団の中で、二人ごそごそと擦りっこして、「俺はいい」とか言ってたヒロさんの方が最後にはノリノリで、可愛い声をあげて俺の手の中で果ててくれた。 暖かさとイッた後の倦怠感に眠くなってしまったらしいヒロさんが俺の胸元で小さな欠伸をして、俺のパジャマの胸元にぴったりと頬をくっつけて瞳を閉じる。 そんな可愛い顔を見つめていたら、俺もまた眠くなってきて、そのポカポカする愛しい体を抱き寄せ目を閉じた。 おやすみなさい。 朝までまだもう少し。 ◇ おわり ◇ |
2009年11月05日掲載 |