『エスコート』




『エスコート 5 』




「秋彦?何であいつが。」

「幼馴染みって言ってましたけど・・・本当にそれだけなんですか。そんな男好きする顔して・・・あなた、宇佐見秋彦とも寝た事あるんでしょう。」

羞恥の為か、怒りの為か、一瞬で顔が熱くなってしまう。

「その顔は・・・図星ですか。ああ・・・耳まで赤くなっていますよ。そうか、そうやってあんたは男を誘うんだ。一緒に来ていたあの男も、宇佐見秋彦も、そんな風にしてベッドに誘ったんですね。」

「てめぇ・・・いい加減にしねぇと・・・。」

振りほどこうと両手に力を込めるものの、逆に手首を捻るように締められ痛みに眉をひそめた。両脚の間を膝で割られて、太腿でぐいぐい股間を押し上げられる。

「ちょっとした好奇心ですよ、先生。宇佐見秋彦が愛した躰がどれだけのものか、試させて下さい。・・・今更減るものでもないでしょう?ああ、心配いりませんよ、俺上手ですから。よがり狂うくらい、ちゃんと先生にもいい思いさせて差し上げます。」

こいつの目的は、秋彦か。
親しそうだから勘ぐっているだけで、何の根拠も無さそうだ。

両手首を一纏めに片手で頭上に押さえられ、空いた右手が顎や首のあたりをべたべたと触ってくる。不快以外の何ものでもないその感触に、俺は唇を噛んだ。

するりとネクタイを解かれる。

至極楽しそうにシャツの釦を外していく角の様子を伺いながら、俺はどうにかしてこの窮状から逃れる方法を頭の中で巡らせていた。
畜生、どうしてこんな肝心な時に野分は一緒じゃねえんだよ。
って・・・トイレくらい1人で行かせろって言ったのは、俺か。

「先生、綺麗な肌してるんですね。色も白いし肌理も細かくて・・・手に吸い付くみたいだ。鬼の上條がまさかこんな、男に抱かれて悦ぶなんてみんな想像もしてないでしょうね。美咲・・・高橋の事を知った時には、あんなガキっぽい奴のどこが良かったんだろう、って不思議だったんですけど、あんたなら理解出来ます。・・・ねぇ、教えて下さいよ。宇佐見さんはどんな風にしてあんたを抱いたんです?」

いい加減キレて暴れてやろうかと思い始めた時、ドアの向こう側で声が聞こえた。

「ヒロさん、ヒロさーん。大丈夫ですか?ヒロさん。」

「野分!ここだ!」

ふいの隙をついて、俺はその場でしゃがむようにして体勢を低くすると、一瞬バランスの崩れた角の腹を膝で蹴り上げた。ふいうちによろけたその顎に頭突きを1回食らわすと、俺は床に落ちたネクタイを拾い上げてドアを蹴破る。

「ヒロさん!」

俺の格好にぎょっとした顔の野分の腕を掴むと、俺はそのまま会場には戻らすに早歩きで廊下を進んで真っ直ぐエレベーターに乗り込んだ。

「ヒロさん、いったい何があったんです!その格好・・・。」

「ちょっと酔っ払いに絡まれかけただけだ。大したこっちゃねぇ。でも気分悪ィからもう帰る。秋彦にはまた電話入れときゃいいだろ。」

「酔っ払い・・・って、そいつは?」

「ああいい。ボコっといたし。・・・って、お前何て顔してんだよ。何でもねぇよ。心配すんな!」

手早くシャツの釦を留め、ネクタイを結び直して襟を正すと、真っ青な顔の野分を見上げる。

「・・・ヒロさん、トイレに行くって言って、なかなか帰って来ないから、気分でも悪くなってんじゃないかって心配になって・・・。」

すごいスピードで地上に向けて滑り降りていくエレベーターの中で、ぎゅっと野分に抱き締められる。

「すみません。俺がついていながら。」

「別に何でもねーって。でもって、もう下に着くから離せ!オイ!」

僅かな浮遊感と共にエレベーターは1階に到着し、ドアが開く寸前に野分の腕を引っ剥がした俺は、入れ替わりにエレベーターに乗り込む旅行客達とすれ違うと、そのまま野分と共にホテルを後にした。

  
  ◇ 続く ◇





『エスコート 6 』



「はーっ、結局俺、ろくにメシ食えなかったな。」

「それはヒロさんがお酒ばっかり物色してたからです。」

「畜生、せっかくいい気分だったのに、酔いも醒めたぜ。・・・野分、ファミレスでも居酒屋でもいいから仕切り直しだ。」

「・・・いいですよ。でも、せっかくおめかししているのに、いつものようなお店でいいんですか。」

「別に高い店で食いたい気分でもねーし。」

野分と2人、ホテルを出て人通りの多い夕方の繁華街を歩く。
本当は手を繋いで歩きたかったけど、これだけ人の目がある時にそれは出来ず、野分の服の袖を掴んで歩いた。

「家帰りましょう。俺何か作りますよ。」

「俺はそれでもいいけど。」

「食べたいものありますか?材料買って帰ってもいいし。」

「んー・・・ハンバーグとか?」

「いいですよ。ハンバーグでいいなら買い物も必要ありません。急いで帰りましょう。」

「・・・そんなにお前、腹減ってたのか?」

「お腹より・・・ヒロさんを早く頂きたいんです。そんな素敵な姿で、見る度ドキドキさせられて、抱き締めたくなる気持ちを抑えるのでやっとでした。食べたらすぐに抱き締められる場所がいいです。」

「・・・・・・・あ・・・・そ。」

道行く人がすげぇ確率で振り返る、そんな格好で何を真剣に言ってんだか。
こっ恥ずかしい奴・・・と思いつつも、まだほんのりと体に残る酔いとさっき野分に一瞬抱き寄せられた腕の心地よさのせいで、素直に頷いてもいい気がしている。

「だから、早く帰りましょう。」

スクランブル交差点が青になった途端、野分にがっしりと手を握られる。俺の手を引く大きな手のぬくもりが嬉しくて、その手が導くまま俺も歩を早めた。










野分特製のハンバーグ(目玉焼きのせ)と、生野菜たっぷりの冷製パスタをたらふく食って、食後に出してくれた冷えたスパークリングワインを居間のソファで飲んでいる俺は、何故か未だスーツを着たままだ。
皺になるし、肩が凝るしで帰ったらさっさとTシャツとかに着替えたかったのに、頑なに野分から反対されて、結局上着を脱いだだけの格好でこうして寛いでいる。
そういう野分も上着を脱いだだけでベストを着たまま、以前俺が買ってやった気に入りのカフェエプロンを付けて食器の後片付けをしている。後ろから見てるとソムリエみたいだ。

うちのソムリエの用意した酒は旨い。ついでに飯も旨い。
なんて事を考えながら、きびきびと働くその野分の背中をつまみにワインを飲む。

さすがに少し酔いがまわってきているようで、その背中に抱きつきたくなって困る。
食べたらすぐに・・・って言ってたから待ってんのにな。

「はい、お待たせしました。終わりましたよ。」

ロング丈のエプロンを外しながらソファの横に座った野分の首に両腕を回して抱きつく。

「もう酔っちゃいました?甘えん坊さんですね。」

唇を重ねられ、髪の毛を優しく撫でられて、その気持ち良さにそっと瞼を閉じる。
ネクタイを解かれ、シャツの釦を器用に片手で外していく野分の手に全て委ねた。

「着替えさせなかったのって・・・・脱がせたかったからだ、とか?」

「何で分かるんですか?」

「・・・お前の魂胆なんてものは・・・見え見えなんだよ・・・。」

それじゃあ、俺にも脱がす権利あるんだよな、と思いながら野分のシャツの釦に手を伸ばした。




  ◇ おわり ◇




お題提供
『みんながヒロさんを愛してる』同盟様


オシャレデート でした。

2009月6月18日〜6月23日 連載



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