『肌』 |
『肌』
俺には、他人と初めて肌を重ねた時の記憶がない。 大学に入ってすぐの頃、受験が終わった開放感で、自分もまわりもどこかふわふわと浮き足立っていた4月、顔を覚えたばかりの学部の奴ら数人と飲みに行って、何軒か梯子をした後記憶が飛んで、次に気付いた時、俺はホテルの一室、見知らぬ男の隣で目を覚ました。 大丈夫、同じ学部のヤツじゃあなさそうだった。 深夜の為に明かりを落としたフロントの前を足早に通り越し、ホテルを後にする。
俺を好きだと、だから好きになって欲しい、そう言った野分。 ぎこちない愛撫は、どう見ても不慣れだったが、野分に触れられるといつもどうしようもない程体が疼いた。恥ずかしいくらい興奮して、夢中になってヤツに縋り付いて、声が出なくなるまで啼いて・・・。 自分の体が変わっていく。
「ヒロさん・・・・。」 野分のベッドの上、俺は脚を限界まで大きく開かされ、体の奥深く野分を受け入れていた。 好きだから。 好きで好きで何物にも代えられない大切なヤツだから、触れられれば心も躰も悦んで震える。 「あっ・・・・ああ・・・・野分・・・。」 ゆっくりと律動を始めた野分の動きにあわせて、俺も腰を揺らす。擦られる気持ち良さに野分を受け入れている部分にぎゅっと力が入ってしまって、そうする度野分の眉が苦しそうに寄せられた。 「・・・あっ・・すごい、気持ちいいです。・・・ヒロさん・・ヒロさんのここ、イイ。」 野分の上擦った声に俺もまた煽られて、はしたなくもひっきりなしに声が漏れる。 野分に抱かれてから、俺は・・・ずっと、野分しか知らない。
あの日、自分のアパートの部屋に転がり込むように駆け戻って、長い時間シャワーを浴び続けた。情けなくて、涙があふれて、散々自分のだらしなさを責めた。 あの時の涙を、痛みを・・・俺は今でもたまに思い出す。 そして今、俺を抱き締めて眠る大好きなこいつの腕の中で、幸福な倦怠感に体を弛緩させて、その胸元に額をこすりつけながら、こいつと出会えた奇跡にそっと胸の中で感謝したくなる。 野分が俺を好きになってくれて良かった。 肌が何もかも教えてくれる。好きだからこそ、繋がりあえる喜びがあるのだと。 まだ幼かった、恋を知っているつもりで何も知らなかった、あの日の俺にそれを教えてやれたら、と想う。
肌→繋ぐ でした。 |
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