『本日、休業。』




『本日、休業。』


「ヒロさん!そんな薄着じゃダメですよ!」

カシミアとはいえ、薄手のロングコート一枚で出勤しようとしているヒロさんを見て、心配になって思わず声をかける。

「今夜は冷え込むって、さっきテレビでも言ってました。かさばって嫌なんでしょうが、こっちのダウンに変えて下さい。」

「・・・・電車乗ると暑ィんだよ。それにスーツに似合わないから、いい。」

「そんな事言って。帰り絶対寒くなりますよ!それにダウンもよく似合っています。スーツの上でも大丈夫です。」

「お前のセンスはあてにならねー!」

そうかな。つや消しの真っ白なダウンジャケットはヒロさんにとてもよく似合っていると思う。今着ているチャコールのコート姿もハッとするくらい綺麗だけど・・・白も・・・。

「いいから手、離せ。遅刻するだろ。」

ヒロさんのコートに手をかけて、半分脱がしたような状態でぽんやり見惚れていた俺は、ヒロさんにキッと睨まれてようやく我に返った。
しかも半分肩を覗かせたままで上目遣いに俺を見上げる彼の頬はわずかに赤く染まっていて・・・。

そんな顔で見られたら、抑えられなくなっちゃうじゃないですか。

細いおとがいを指ですくって、思わず唇を重ねた。

行ってらっしゃい、のキスにしては艶を込めた濃厚なキスになってしまって、俺の胸にしがみついていたヒロさんの膝がガクッと崩れる。傾いだその体を腕で支えて抱き寄せると、暴れたりしないで胸の中にすっぽりと収まってくれる。

ああ、何で今日は平日なんだろう。
俺は休みだけど、当然ヒロさんは仕事に行かなくてはならなくて、この火のつきかけた体を離して送り出さなくてはならないなんて。

「野分・・・遅れる・・・から。」

抱き締めた腕の中で、ヒロさんが小さく呟く。

「大丈夫です。まだ走って行くような時間じゃありません。」

「・・・朝から、何しやが・・・・ンッ・・・・。」

再び口づけながら上着の襟から手を差し入れ、ワイシャツの胸のあたりを指で辿ると、ヒロさんの喉が小さく鳴った。服の上から指先で擦っているうちに小さな粒が指にあたる。

・・・あ、ヒロさん乳首立ってる。

全身どこも隙が無いようにきちんと着こなされたスーツ姿なのに、頬を紅潮させて唇を濡らし、乳首をツンと立たせたヒロさんはどうしようもないくらいに艶っぽくて、どうしてこんな状態の人を満員電車なんかに乗せられようか、と思ってしまう。

「ヒロさん・・・今日休めませんか?」

「え・・・・そっ・・・そりゃあ今日は授業無いけど、まとめておきたい資料もあるし、大学でないと色々作業が不便だか・・・ら・・・って、オイ!野分!」

コートを羽織ったままのヒロさんを抱き上げると、俺はそのまま玄関からリビングへと戻り、ドアが開いたままだった俺の寝室の方へと彼を運ぶ。

「ヒロさん、今日はサボりましょう。」

「何勝手な事言ってんだ!・・・つかどうして朝っぱらからそんな盛ってンだよ!服がしわになるからヤメロって!」

「コートもスーツもちゃーんと掛けておいてあげます。」

ベッドに腰かけて、キスをしながらスーツを脱がせる頃にはヒロさんも俺の首に腕をまわしてくれていて、突然の自主休業が決定的になってきた。

つい数分前に結んだばかりのネクタイを解き、真っ白なワイシャツのボタンをひとつずつ外していく。

キスと、服の上からのお触りだけですっかりとろけてしまった彼を、朝の爽やかな光の中でどんな風に乱れさせてあげようかと考えるだけで、胸が沸き立つ。

ごめんなさい、ヒロさん。
でも・・・こんな日も、たまにはいいですよね。

俺は引き抜いたスラックスを椅子の上に掛けながら、三たび、甘い・・・甘い、彼の唇をゆっくりと味わった。


 ◇ おわり ◇







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