『頬』 |
『頬』
湯気で白く曇った視界に多少は助けられているとはいえ、どうしてベッドの上でもなく、素の状態で素っ裸になって狭い空間で二人・・・という状況はこうも耐え難いのだろう・・・。 「ヒロさん、入浴剤どれにしますか?」 「あー? 何だっていいよ。お前適当に決めろ。」 結構ちょこちょこ使っているはずなのに、ちっとも減ってこない野分買い置きの入浴剤は、色んな色や香りの物がばらばらに入れられている。 「じゃあ、これなんてどうです?日本酒の湯。」 「飲まずに浸かってどうする。じゃあこれも同じパターンなのか?」 「ビールの湯ですか?えっと・・・これはですね、ただ黄色い泡風呂です。さっきの日本酒は実際に日本酒を絞った後の酒粕が原料になってるそうなので、すごく温まって、お肌がすべすべになるそうですよ。」 「・・・・・あそ。」 何だかばかばかしくなってきた俺は、裸のままで入浴剤入りの籠をかき混ぜている野分を置いて、先に浴室へと入る。 一人悠々と足を伸ばして湯船につかっていたら、やたらニコニコしながら野分が後から洗い場に足を踏み入れた。 「これにしましょう。泡風呂で、さらにお湯にとろみがつくシリーズです。お肌にもいいんだそうですよ・・・香りは季節に合わせて紫陽花にしてみました。」 野分は俺の浸かっている湯の中に分包の中身をざあっと注ぎ入れる。掻き回すとお湯がみるみるまに白く濁り、水面が若干泡立って来た。 紫陽花って、こういう匂いだったっけ?などと考えながら手のひらにすくったお湯を眺めていると、浴槽の俺の背後に野分が入ってくる。当たり前のように俺の腰を掴んで自分の膝の上に座らせると、背中からやんわりと抱きすくめられた。 腰の下、すでに硬くなった野分自身が俺の太ももを押し上げている。 「お湯にとろみがあるタイプですから、ぬるぬるしますね。」 そのぬるぬるした感触をお前はどこで確かめているんだ?と聞きたくなる。野分の両手はお湯のとろみを撫でつけるように、俺の胸元へと滑り、胸の突起を指先で弄り始めた。 「・・・・んっ・・・・。」 体を震わせた俺の動きに、白く泡立った水面がゆらゆらと揺れている。 野分に触られて硬くなったそこを少しきつめに摘まれる度、我慢出来なくて小さな喘ぎが漏れた。 「ヒロさん・・・。」 背後から耳元に囁かれる野分の息は熱く、狂おし気に首筋から喉もと、頬へと触れ、全身をくまなく滑っていく彼の手が、俺を堪らなくさせていく。 背後から伸ばされた手に膝を割られ、脚の間から突きだした野分のものと共に手のひらに握り込まれる。ぬめるお湯に助けられて滑らかに動く手の動きが卑猥で、だんだんと俺は声を殺せなくなってしまう。 風呂場でこういう事をするのが苦手なのは、風呂場という構造上、自分の声が尋常じゃないくらい響いてしまう事も理由のひとつだと思う。しかも換気の為に開いた可動式ルーパー窓の隙間から絶対外に声が漏れてるだろう・・・!とか考え出したらきりがない程恥ずかしいのに、いつでも最後には野分に押し切られてしまって、気付けばこんな有様だ。 色々とぐるぐる頭の中巡る事はあるけれど、半月ぶりに触れられる野分の手の感触、密着する肌のぬくもりが、どうしても手放せない。 視界を白く遮る湯気は濃厚な香りを放ち、俺の思考回路を少しずつ奪い取っていく。 どうせだったら、もっと、もっと。 何も考えられなくなる程に・・・甘く翻弄してくれ。
お題提供 頬→触れる でした。 |
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