『抱擁』 



野分と一緒に暮らし始めて半年になる。

出会ってから7年になるものの、これまでお互い学業や仕事で忙しくすれ違いが多かったし、野分が1年間アメリカに留学していた事もあって、一緒に過ごせた時間など、ぎゅっと凝縮してしまえばほんの数ヶ月にも満たないんじゃないかとさえ思える。
紆余曲折乗り越えて同居に踏み切ったけれど、俺は大学での教職に加え、研究と論文で毎日帰りは遅く、野分は世にも過酷な研修医の身で夜勤はしょっちゅう、昼も夜もなく馬車馬の様に働いて、ヘトヘトで帰って来て寝ているところに、夜中呼び出される事も度々あって、実際何日も顔を合わさない事なんてざらだったりする。

たまに偶然タイミングが合ってほんの一時、野分と過ごせる時間は、俺にとって本当に宝物のような時間なんだけど、素直じゃない性格が災いして甘えるどころか憎まれ口を叩いて終わる事の方が多い。

あぁ、もうずいぶん野分に触れてないよなぁ。
セックスとまではいかなくても、キスしたり、ぎゅっと抱き締めてもらいたい。…なんて、口に出して言える日なんて、百年かかっても来やしないだろうけどな。

家に持ち帰っていた論文の直しをしながらコンビニで買って帰った弁当を一人で食べ、自室のベッドに横になってから、先日買って来た秋彦の新刊(もちろん宇佐見名義の方だ)をめくっているうちに疲れが出て来たのか睡魔に襲われ始めていたその時、玄関の方で物音が聞こえてきた。

先に寝ている俺を起こさないように、静かにリビングに入り、冷蔵庫を開ける音がかすかに聞こえてくる。
ミネラルウォーターのペットボトルを開ける気配。
喉を鳴らして水を飲み干す音。
よほど疲れているんだろう、野分は冷蔵庫の扉を閉めるとシャワーも浴びずに、そのまま自室に帰って行ってしまった。

多分、今夜も数秒で眠ってしまうんだろう。
それが分かっているから、こうやって起きていたとしても声さえかけられない。
「おかえり」と言って顔を見せてやれば、野分の喜ぶ顔が見られるだろうし、俺だってどんなにか嬉しいんだけど、それよりも疲れた野分に1分1秒でもゆっくり寝させてやりたいと思うんだ。

最後に野分に抱かれたのって、いつだっただろう。
野分が夜勤明けで昼頃ようやく起きて来て、その日たまたま俺が休みだったから、一緒に昼飯を食べた後、やたらとベタベタしたがる野分にほだされる形で、リビングのソファーの上で体を重ねた。
嬉しくて、幸せで、もうどうにかなってしまいそうな程、熱くなり始めていたのに、無情にも野分の勤務先の病院から呼び出しがかかって、そこで強制終了。後ろ髪ひかれて躊躇う野分を蹴り出すようにして勤務先に追い出したんだ。

野分が欲しい。

アイツの体温を全身で感じたい。

同じ屋根の下で、ほんの数メートル横で眠っている野分が、とても遠くてどうしようもなく寂しい。

悶々とした気分のまま、1時間が過ぎ、俺は静かにベッドを抜け出した。
真っ暗なリビングを抜け、野分の部屋のドアをそっと開ける。

俺の愛しい男は、窓の外の薄明かりに照らされ、子供みたいに穏やかな寝顔で寝息をたてていた。

「野分…。」

もちろん起こすつもりはない。
深い眠りの淵にいる野分を起こさないように、そっと歩み寄ると、俺はベッドの横に座った。

実は、こうして野分が寝静まってから、こっそり部屋を訪れるのは初めてじゃない。
どうしても野分の顔が見たくて、触れたくて、寝ている間であっても寄り添いたくて、夜中にやって来てはしばらくの間寝顔を見つめ、またそっと自室へと帰って行く。
気付かれていないからこそのささやかな楽しみ。

俺はすやすやと眠る野分の唇を指先でそっとなぞり、ゆっくりと自らの唇を重ねた。
眠りの深い野分は気付かない。
シーツの端からはみ出した、あたたかく大きな手に頬を寄せ、欲しかった野分の体温を味わう。

ただ触れているだけなのに、その手のぬくもりから野分の熱を思い出して、体の奥深い部分が切なく締め付けられてしまう。

「の…わき…。」

その手のひらに唇を押し付け、俺はもどかしく自分のパジャマのウエスト部分を押し下げた。半勃になりかけている自身に指を絡め、息を殺しながらゆっくりと擦りあげる。

「…っ…はっ。」

野分の手のひらに、熱く火照り始めた顔を埋めて、柔らかなシーツに上半身を預けた。
耳をくすぐる穏やかな寝息と、部屋に満ちた野分の薫り。胸に拡がる罪悪感に抗い、やめなくちゃ、と思いながらも弄る指先の動きは止められずに、次第に湿った音が部屋の中に零れ落ちた。

「は…っ…ぁ…はぁ。」

硬くなって、濡れ始めた自身をきつく握りしめ、擦りつける。野分の大きな手に優しく強く揉みしだかれる時の事を思い出しながら。

「…あ…っん…あ…。」

咬み殺しきれない喘ぎが唇からため息と共に漏れる度に、慌てて俺は薄く目蓋を開き、そっと野分の横顔を伺った。

「はぁ……んっ。」

きつく閉じた目蓋の内側が白く染まり、切なく肩を震わせたその時、野分の手に添えられていた空いた方の手首を、ふいに捕まれ、俺はびっくりして目を見開いた。

「…ヒロさん?」

ヤバイ、起こしちまった。
壊れそうな程に心臓の音が跳ね上がる。

「な…ごめ…起こすつもりは無かったんだ。…っつーか、マジでごめんっ、俺帰るわ。」

慌てて服を直して逃げ出そうと立ち上がりかけた俺の手首をぐっと引き寄せ、野分はゆっくりと上半身を起こした。

「ヒロさん、帰らないで。」

「や…やめろよ。マジ、ごめん。離し…。」

捕まれた腕を振り払おうと身をよじる俺の体は、あっという間に野分の腕の中に絡めとられてしまった。

「ダメです。絶対返しません。」

恥ずかしさで心臓が張り裂けそうになっている俺をきつく抱きしめ、野分は大きな息をついた。

「謝らなきゃいけないのは俺の方です。こんな事させてしまう程、ヒロさんに寂しい思いをさせてたんですから。」

「……う゛…。」

「恥ずかしがらないで、俺に続きをやらせて下さい。…って言うか、そんな可愛い姿見せつけられて、とても寝てなんかいられません。」

「そんな事言って、昨日も帰れなかった上に、今日もこんな遅くまで働いて来たんだ。疲れてるだろ。」

「俺なら平気です。」

「バカ、無茶して倒れたりしたらどうすんだよ。」

「平気です。」

柔らかな笑みを浮かべた野分に強引に唇をふさがれ、そのままベッドの上に引き倒されてしまう。
互いのパジャマをもどかしく脱がせ合い、貪るように下肢を引き寄せられた。まだ熱を持ったままの高ぶりを愛しそうに撫で上げ、熱く濡れた口腔に包まれる。


「あっ…!」

弱い裏筋を硬く尖らせた舌でなぞられ、びくんと腰が跳ね上がった。強すぎる快感に思わず逃げをうつ腰を野分は乱暴に引き戻し、固く閉じようとする膝を易々と押し開いた。いつもより荒っぽい所作に、野分自身の興奮が感じられて、尚更に高まってしまう。薄暗い部屋の中に、唾液に濡れ湿った音と、野分が吐き出す熱い吐息が響き、それだけで堪らない気持ちにさせられた。

「あ…野分…やっ…。」

先走りが滲む先端を舌先でえぐられ、こらえきれずに甘い悲鳴が止めどなく零れ落ちる。


「やめ…や…もぉ…イク。」


野分の口の中でイッてしまうのが嫌で、腰を引こうと体を揺らした弾みでギリギリまで熱く高められた自身が、口腔から外れ、室内の外気にさらされた。

今にも弾けそうな程に張りつめたそれに思わず指先を伸ばすと、握りしめた手の上から優しく野分の手のひらに包まれる。


「ヒロさん、このままじゃ辛いでしょう。あのまま一度イッて良かったのに。」

「…ヤダ。」

「じゃあ、もう一回自分で触ってみせて。今度はちゃんと俺の目の前で。」

意地悪な事を言う野分を睨み付けるけど、すっかりスイッチが入ってしまっていて本気の野分は全く動じない。


「見せて下さい。ヒロさんのいやらしい姿。」


こういう時、どうしようもなく扇情的に感じられる野分の低めの甘い声。


こうなってしまうと、もう俺に抗う術などなく、操られるように俺は両膝を立てて、
野分の眼前に下肢を晒すと、ゆっくり自らのものを扱き始めた。こらえきれずに滲んだ滴りと、野分の唾液に濡れたそれをクチュクチュと音を立てて擦り、空いた片方の手を体の奥へと伸ばす。


「や…ぁあ…あ…。」


もうとっくにジクジクと疼き震えている深淵に濡れた指先を添え、その内側へとぐいと差し入れた。

「あ…あぁ…ん。」

前と後ろとを同時に弄りながら、ひっきりなしに喘ぎを漏らす俺を、怖いくらいにじっと見つめる野分の視線が犯す。

「後ろは俺にさせて下さい。自分じゃあ奥まで届かなくて、もどかしいでしょう。」

震える指先で内側を掻き回していた俺の手を取りあげ、代わりに野分の指が突き立てられた。節のある長い指先がゆっくりと内側の襞を引っ掻き、深く深く押し拡げられる。


「やあ…あ…あ………。」


「ヒロさんのここ、もう柔らかくなって来ていますね。準備しますから、もうちょっと我慢していて下さい。」

内側を掻き回していた指を引き抜き、野分はベッドサイドへと手を伸ばした。そして、手のひらで人肌に温めたローションを俺の内側へとたっぷり塗りつけ、指に絡み付いた滴りを襞の淵まで塗り拡げた。

ローションに潤され、ぐちゃぐちゃになったそこへ、更に野分の指がしつこく抽出される。2本に増やされた指が深く浅く内側をえぐり、野分しか知らない俺の最も弱い部分を執拗に攻められて、俺は自らの手を汚す。


「野分…のわ…き、早く。」

「ええ、俺も早くヒロさんの中に入りたいです。でも、もうちょっとだけ我慢出来ますか。」

「ヤ…嫌…何で……!」

「もっともっと、ヒロさんに気持ち良くなって欲しいんです。」

「や…嫌…嫌だ…野分、……野分。」

「スゴい、ヒロさんの中、ヒクヒク震えてて、俺の指をグイグイ締め付けてきます。」

「やめろ…よ…ばかやろ…や…ああ!」

「気持ちいいですか?ヒロさん、…また勃ってきていますね。」

「…あ…あぁ…いや…。」

極まり過ぎて、あふれた俺の涙を野分は唇で優しく吸うと、そのまま深く口づけてきた。

限界まで張り詰めた野分の熱が太股に押し付けられている。もうとっくに欲しくて欲しくて、おかしくなりそうになっているのに、焦らすように口づけられて、止めどなく涙が頬に零れ落ちていく。


「ヒロさん…大好きです。」


戦慄く蜜壷から指を引き抜かれると同時に、熱く猛った野分自身がねじ込まれる。じっくりと解された内部は抗う事なく一息に全てを呑み込み、恋焦がれた熱い塊を体の奥深くで受け止めた。


「ヒロさんの中、すごい…気持ち…イイ。」


俺もだよ。
そう答えてやりたい。幸福感と嬉しさで胸の中はいっぱいなのだけれど、こんな状況であっても意地が先にたって声に出せない。


「ヒロさんに意地悪し過ぎて、俺自身もあんまり余裕ないんで…ゆっくり動きますね。」


抜け落ちるギリギリまでゆっくりと引き抜き、再び奥深く挿入してくる。激しく突き上げられるのと違い、こんな風に静かに動かれると、かえって野分の張りや形、自分の体の状態がリアルに実感させられて、恥ずかしいし、より強く感じてしまう。


「…あ…あっ…あ…。」


「可愛い声、たくさん聞かせて。」

「や…嫌。」

「ずっとヒロさんに触れられなくて、寂しかったんです。いったい何回頭の中でヒロさんを泣かしたいと夢想していた事か。」

「………。」

「仕事は確かに忙しいけど、ヒロさんを可愛がりたい気持ちは忘れた事ありませんよ。」

深く繋がり合ったままで耳元に囁かれる野分の声が蠱惑的に頭の芯まで響いて、体の内側から蕩けてしまいそう。

「長くもたせたくて、こうしてるけど、辛くないですか?」

「………いい。」

「気持ちいいですか。」

「………うん。」

甘過ぎる誘導尋問に、やっと素直になれた俺をきつくきつく抱きしめて、野分は少しずつ動きを早めていった。

片足を抱えあげられて、斜めから突き上げられると、慣れない箇所がえぐられて、ふいに叫声が漏れる。そんな俺の反応を野分は見逃さず、わざと執拗に同じポイントばかり掻き回してくるのだ。


「…あ…あっ…あっ…。」


こういう時の高揚した野分の表情は、平常の穏やかさが嘘のように男くさい。理性を飛ばし、欲情にまみれたその顔が俺にとって一番好きな顔だ。
野分に抱かれるこの瞬間をどうしても欲してしまうのは、肉体的な満足感を得たいという気持ちよりも、欲望に我を忘れ、行為に夢中になっている野分を見たいから…なのかもしれない。

17歳の時に俺と出会い、初めて肉体関係を持ってから7年、多分野分は俺としか経験が無いはずで。
最初の時こそぎこちなかったものの、月日を経て回数を重ねるうちにとんでもない程巧くなってしまって(勉強にしろ、仕事にしろ真面目なせいか何しろ上達が早い)もう何度抱かれたか分からないのに、野分の体に慣れれば慣れる程、どうしようもなく乱され翻弄されている自分に気付く。

熱さに蕩かされた内襞を擦って、ずるりと引き抜かれる感触に、思わず身をすくめると、うつ伏せに腰を返され再び背後から深く貫かれる。

「や…っ、あっ…あっ…あ……。」

後ろから回された手に胸の尖りを弄られ、強く摘ままれて思わず高い声が漏れた。


「ヒロさん…腰をもっと…そう、高くあげて。一番深いところまで突いてあげますから。」

「あ…や…っ…はぁ。」

「…ヒロさん…っ。」

耳もとに囁かれる野分の声がうわずっていて、限界が近づいている事が分かる。
崩れそうな腰を何度も引き寄せられ、顔はシーツに押し付けたまま、尻だけを高く上げさせられた恥ずかしい恰好で、深々と貫かれて。

触れられなくても繰り返し精を零し、ひくついていた俺の中心に野分の手が伸ばされ、大きなその手に包まれる。


「すみません。もうこのまま…中に出しちゃってもいいですか?後始末は俺、やりますから。」

「…っ…いいよ、そんなのっ。も…いいから…早く、早くして…。」

「ヒロさん、一緒に…。」

前に回した指を巧みにからませ、少し強めに擦られる。

「あっ、あっ…嫌ぁ!」

耐え難い快感の波に流され、意識を飛ばしかけた瞬間、体内に熱いものが数回に分けて、注ぎ込まれた。

全てを吐き出し終わっても野分のそれは硬度を失わず、俺を貫いたままで、絶頂の余韻がまだ燻る俺は堪らなくてぎゅっと目を閉じた。

ゆっくりと背中の上に体の力を抜いた野分の体が覆いかぶさって来る。


「…重い。」

「すみません。でも、もう少しこのままでいさせて下さい。」

手のひらに受けた俺の飛沫をティッシュで拭いとってから、野分は背後から腕を回して俺の体を抱き寄せてきた。

「そうしてんのは…まぁ、いいんだけど。とりあえず、その…抜け。」

「嫌です。」

「……!」


「だってお前、明日も朝から出勤なんだろ。昨日も一昨日も夜勤だったのに…朝までちょっとでも寝ろ。」

「大丈夫です。下手に睡眠取るより、ヒロさんとこうしてる方が、疲れがとれる気がします。」

「嘘つけ。それに明日は俺も授業あるし…。」

「ヒロさんは眠いんですか?」

「…こんな状態で、寝れる訳ないだろ!」

クスクス笑いながら、野分は俺の首筋に唇を這わせてくる。首筋からうなじに、うなじから耳へと舐め伝う感触に、背中がぞくりと震える。


「……あっ…バカ。」

「すみません。ヒロさんが締め付けるから、また……。」

「だから抜けって言って!……」

「もう無理です。すみません。」


悪態をつく俺に構わず、再び野分が動き始める。体の内側でぐんと容量を増したそれは、中に残ったままの精をぐちゃぐちゃと掻き回し鈍い音をたてていて、俺は恥ずかしさに顔を枕に深く埋めた。


結局、あの後も野分に押しきられるまま2ラウンド目に突入してしまい、もう朝が近い程の深夜、一緒に風呂に入って、お互い髪も乾かさずに同じベッドにもぐり込んで眠った。
『後始末は俺が。』と言った野分は嫌がる俺にも構わず、半ば無理矢理に風呂で俺の体内に残ったものの後始末をしてくれた。
ぬるめの温度に設定したシャワーを流しながら、指で内部に残ったものを掻き出され、また火がともりそうになるのを堪えるのに必死だったのを野分のバカは気付いただろうか。

野分の、決して広くはないセミダブルのベッドで抱き抱えられるようにして目覚めた俺は、まだはっきりしない朦朧とした意識のままぼんやりと目を開いて、目前に迫った野分のどアップに驚いて飛び上がりそうになった。

「なっ…何、お前…!」

「おはようございます。もうちょっとしたら起こそうと思っていたんですが、今日は早かったですね。」

「か…顔が近過ぎんだよ。びっくりしただろ。」

「すみません。ベッド狭いんで。」


高揚して赤くなった顔に気付かれたくなくて、肌掛け布団を引っ張りあげ必死に顔を隠そうとゴソゴソやっていると、両手でそっと顔を包まれ、顔を上向かされる。


「昨日は遅くまで無茶させてすみませんでした。体辛くないですか?」


「……べ、別に、そりゃちょっとは眠いけど。そんなの何時に寝たって毎朝そうな訳だし…っ。」

目を逸らせない恥ずかしさに、頬を包まれたまま俺はおろおろと視線を泳がせた。

吐息がかかりそうな程近くから見つめられて、心臓が早鐘を打ち始める。
どれだけ濃厚なセックスをしようと、何度体を重ねてようとも、野分の傍に居るとどうしても緊張してしまって…こればかりはどうしようもない。
そのせいでいつもぎこちない表情をしていたり、つれない事を言っては野分に寂しい顔をさせてしまうのだ。


「ヒロさん、大好きです。」

そのままゆっくりと口づけられ、俺は体の力を抜いて目を閉じた。

朝のせわしない限られた時間。もうじき2人共ベッドから出て、朝食を急いでとった後、それぞれの職場へ行かなくてはならない。次にこうして抱き合って朝を迎えられるのは、いったいいつの事になるのやら。だからこそ、寝起きでまだ覚醒しきってないふりで、野分の柔らかい唇を味わっていたい。


「ん……っふぅ…んんっ。」

おはようのキスにしては激しく舌先を吸い上げられ、息が乱れる。離れ難い気持ちを、野分も自分と同じように感じてくれているんだと胸が熱くなった。チュッと音を立てて唇が離れ、頬に触れていた手が俺の髪の毛をくしゃくしゃと掻き乱す。


「今日、早めに帰って来ますから、夕飯一緒に食べましょう。俺、作ります。」

「そ…そんな約束したって、結局帰れなくなるパターン多いんだし、俺だって早いかどうか…分かんねーぞ。」

「大丈夫です。俺、ヒロさん帰って来るまで絶対起きて待ってますから!」


嬉しくて思わず緩んだ顔を見られたくなくて、俺はうつ向いたまま、分からないくらいに小さく頷いた。

今日は教授からどんなに頼まれても、残業しないで帰ろう。
例え、野分が遅くなったって構わない。その時には、俺が何か晩飯を作って待てばいい。

朝食の味噌汁を温めに行った野分の背中を見つめながら、俺はそう決意した。

 

 ◇おわり◇









◆ 作品解説 ◆

 私が初めて書いたエゴイストのSSです。

好きが高じて書き始めたものの、誰かに見せるつもりもなく、
別にエゴ好きでも何でもない友人にメールで送りつけていた迷惑極まりないものでした。
結局、友人が見かねて(笑)blogを作ってくれたんですが、いまだに基本メール連載。
朝だろうが昼だろうがお構い無しにエロ小説が送りつけられるのは迷惑だろうなぁ…とは思いつつ、
ずっと今も続いていたり。
呆れる事もなくblogを管理してくれ、拍手ボタン用のイラストも寄贈してくれた長年の付き合いの相方
(オフラインの)に感謝です。

「抱擁」のテーマは、ヒロさんの一人えっち。
すれ違い生活が続くのは寂しいだろうなぁと思ったので。

延々とベッドシーンばかりの恥ずかしい作品です。



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