『一緒にいようよ』


『一緒にいようよ 10 』



目覚ましをかけずに眠った翌日、俺が目を覚ましたのは朝の6時過ぎだった。
時間のわりに薄暗い気がしてカーテンを開けると、案の定外は雨模様で、ヒロさんのがっかりした顔が目に浮かぶ。

まあ今日は出かけずに家で過ごそうと話してあったし、昨日かなり無理させた事を思うと外に連れ出すのもしのびなかった。カーテンを元に戻して振り返るとすぐ傍に置かれたベッドの上には寝具にくるまれて眠る恋人の姿。清拭はしたものの裸のまま眠ってしまったヒロさんを、ヒロさんお気に入りのガーゼの肌掛け布団で包んで、その上から抱き締めて眠った。

俺は、子供の頃から雨の音を聞くと眠くなる癖がある。
今日のように音もなく静かに降り続く雨でも、雷鳴轟く激しい雨でも。

カーテンを元通り引いて、二人分の体温で温もった布団の中に再びもぐり込む。起こしてしまわないようにそおっとヒロさんの頭を抱き上げ、腕の中に抱き込むと、小さく「ん・・。」と喉を鳴らしてヒロさんが俺の胸に額をすりつけてくる。
こんなにゆったりとした休日なんて、いつ以来だろう。
普段の激務も、ヒロさんに会えなくて寂しい日々も、こうしていると嘘のようだ。
腕の中にいる大切なひとの柔らかい髪に鼻を押しつけながら、幸せを噛みしめる。

とろりと落ちてくる瞼を抗わずに落とし、贅沢にも寝直しを決め込んだ。





「野分。」

遠くでヒロさんが呼んでる・・・。
何ですか、ヒロさん。俺ならここに・・・・

「野分、野分。」

ああヒロさん、どこで呼んでるんです?だから俺はずっとここに・・・・・

「・・・・野分っ!」

「・・・・はっ・・・はいっ。」

突然耳元で叫ばれて、俺は文字通り飛び起きた。
心臓をドキドキさせながら目を開くと、眉間に深い皺を寄せたヒロさんが、俺の腕の中でもがいている。

「早く・・・腕、離せ。お前、馬鹿力で全然抜けられなくて・・・トイレ・・・。」

「ああっ、すみません。」

慌てて腕を解いて掛け布団を剥ぐと、素っ裸のままヒロさんはトイレに走って行ってしまった。
行きは慌ててたからいいけど、これは帰って来にくそうだと考えてヒロさんのパジャマの上だけ持ってトイレのドアの前で待つ。

中で水の流れる音がして、そーっとドアが開かれたので、その隙間から黙ってパジャマを差し出した。

「・・・ぅわ!・・・あ、野分。すまん、ありがと。」

パジャマを羽織って出てきたヒロさんが何とも言えない表情で俺の全身を眺める。

「人の世話焼いてくれるのは有り難いんだけどさ、お前も服着るとか、前隠すとか・・・しろよな。」

「ヒロさんしか居ないのに、何も恥ずかしくないですから。」

「俺が恥ずかしいんだよ。」

「どうしてですか?いつも見慣れているでしょう。」

「そういう時と普通の時とじゃ違うんだ!」

ヒロさんは俺から逃げるみたいに踵を返すと、ぱたぱたと寝室に戻ってまた布団にもぐり込んでしまった。

「まだ眠いですか?」

「そうじゃねーけど・・・・何か雨降ってるみたいだし、どうせならこれ以上ないくらい・・・バチあたりなくらいダラダラしてやる。」

「いいですね、そんなお休みも。」

「だから、野分も働くな。ここに居て一緒にだらだらしろ。」

布団に再度くるまりながら赤い顔をして命令する可愛い暴君の意見を尊重して、今日は1日ベッドで過ごそうという意見に頷いた。

いくらだらだらすると言っても、どうしてもお腹は空くので、ベッドに寝そべって本を読んでいるヒロさんを残してキッチンに立つと、簡単に食べられる朝食を作る。
冷蔵庫のあり合わせで作ったチーズトーストと、シリアルをのせたヨーグルト、カフェオレ、といったメニューをのせたトレーを持ってベッドに戻った。

「朝飯だったらテーブルに行くのに。」

「ダメですよ。今日はずっとベッドにいるんですから、食事もここに持って来ます。それにベッドで朝食なんて洋画のワンシーンみたいでちょっと憧れます。」


  ◇ 続く ◇



『一緒にいようよ 11 』


トレーをヘッドボードの上に置くと、ヒロさんがちょっと嬉しそうな顔をして読みかけの本に栞を挟み込む。本人はいつも隠したがるけど、こういう楽しそうな事をする時のヒロさんの子供っぽい好奇心に満ちた目が好きだ。今も顔をじろじろ見るといつものしかめっ面に戻ってしまうから、気付かないふりで視界の端にその表情を留めるだけにする。

「子供の頃、いいなって思いませんでした?病気でもないのにお布団でご飯。」

「思った、思った。で、持って来てくれーって母親に言ったら、行儀悪いって叱られて。」

「お行儀の悪い事は大人の楽しみなんですよ。」

ベッドに上体を起こしたヒロさんにトーストを手渡す。
嬉しそうにトーストにかぶりつく姿を横目に見ながら、テーブルで食事するのと違って、寝室で摂る食事はやっぱりどこか淫靡だ、と思った。
それは、こうして朝食を口に運びながら、まだ俺もヒロさんも中途半端に衣類を纏っただけの半裸のままである事や、昨夜の情事の名残りが思い出されるシーツのよれとかのせいかもしれない。
昨日、俺の与える愛撫に散々喘いでいた人が、同じ場所で今日は俺の作った飯を食べている。どちらも俺の想いがヒロさんの体中を満たすといい、と思う。

お揃いのマグカップに注いだカフェオレは、俺のは煎れたコーヒーに冷たい牛乳を足した生ぬるいもので、ヒロさんの分は温めた牛乳を足したもの。湯気を吹き冷ましながら両手でマグを包むようにして持つヒロさんが可愛い。

「こうしてると毎日忙しくてバタバタ時間に追われているのが嘘みたいだな。」

「俺も同じ事思いました。忙しいのは自分に役目があるからで、有り難い事なんでしょうけど、週に1度・・・いえ月に1度でもいいから、こんな風に時計を気にせずヒロさんと過ごせたらいいなって思います。」

「まあ、いつか忙しかったのが懐かしい、なんて日が来るさ。」

「その頃には俺達おじいちゃん・・・なんて事ないです?」

「かもな。・・・あ、でも年取ってても医者だったら引退してなかったりするのか?勤務医だったら定年があるとか?あ、でも視力や手元が狂ってきたらさすがにやばいか。」

「ヒロさんは何の心配をしてるんですか・・・。」

冗談みたいに茶化しながら、ヒロさんが年を重ねた二人の姿を自然に想像してくれている事が何だか嬉しい。そんな頃も俺達は一緒にいられているんですね。当たり前のように。

二人の長い人生を思うと、今忙しくてすれ違う生活な事や、会いたくてもなかなか毎日のように会えない事もちっぽけな事なのかもしれない。

「でもあれですね、そんな頃にはヒロさんも老眼進んでるでしょうから、本もあんまり読めなくなって少しは俺の相手も・・・痛っ。」

隣から思いっきり耳を捻られて、イテテテ・・・と大袈裟に痛がってみせる俺を見てヒロさんが笑う。



外は相変わらずの雨だ。
食事の終わったトレーをキッチンに下げると、ぼんやりと窓の外を眺めるヒロさんの横に座ってその肩を抱き寄せた。

自然と顔が近付き、唇が重ねられる。
舌が甘いコーヒーの香りなのはお互い様。

ついばむような軽いキスを数回してヒロさんの唇が離れていこうとする。

もっと欲しくて、ヒロさんのうなじに添えていた手を引き寄せ、顔を上向かせると今度はさっきよりも深く口づけた。
ゆったりと舌を絡めて、上顎を舌先でくすぐる。

口腔を舐め回し、舌先を強く吸う度に、俺の肘を掴むヒロさんの指先に力が入る。

「んん・・・。」

重なり合った唇の奥から漏れるヒロさんの切ない呻き。

昨日あれだけたくさん味わったのに、またヒロさんが欲しくて欲しくて堪らなくなってきている自分に気付き、その欲深さに我ながら呆れかえる。

  ◇ 続く ◇




『一緒にいようよ 12 』



唇を解放し、離れていくヒロさんの表情は少し俯き加減で、上気していてほんのりと頬が赤い。
そのまま俺の肩口に顔を埋めてしまった為にそれ以上顔は見れなくなってしまったけれど、今日のヒロさんはもう酔いも冷めているはずなのに何だか素直で嬉しくなってしまう。

ベッドのヘッドボードに背中を預けて腰掛けたまま、寄り添うヒロさんの肩を抱き寄せ窓の外でそぼ降る雨を見つめる。白くかすんだ遠景にはもやがかかっていて、いつもなら正面に見えるマンションの姿も霞んで見えた。

「二日酔いは・・・大丈夫ですか。眠くなったらいつでも寝ていいですよ。」

「・・・平気。」

平気といいつつ、ヒロさんが小さな欠伸をする。
ああ可愛いな、と考えているうちに俺も欠伸が出た。

「俺、汗臭くないですか。」

「・・・・いい。野分のにおいは嫌いじゃねぇ。」

「ヒロさんもいつもいい匂いがします。お風呂あがりのシャンプーの香りもいいですが、ベッドでの汗の匂いはもっといいです。」

「お前が言うと、何だかヤラシー意味に聞こえる。」

「そういう意味です。」

ヒロさんのパジャマの胸元でクンクンと鼻を鳴らす真似をすると、くすぐったそうにヒロさんが身を捩って笑った。

「ヒロさん、いい匂い。」

胸元にある俺の頭をヒロさんの両手がそっと包み込んでくれる。髪の毛を撫で、その膝の上に抱き込むようにされて、俺はそのままヒロさんの膝の上に頭を乗せた。

パジャマの上衣がふわりと隠してくれてはいるものの、ヒロさんは下に何も身につけていないはずで、掛け布団越しとはいえそれを思うとちょっと興奮してしまいそうだ。
だけど俺の髪を指で鋤いたり、背中にまわされた手のひらは性的な意味を持った触れ方ではないように思えて、うっかり暴走したあまりこのまったりとした幸せな時間が中断されてしまわないようじっと耐える。

実際これだけ近くに俺の顔があっても、ヒロさんのそこはまだ何の反応もしていない。

鍛えている訳でも、体を酷使する仕事についている訳でもないのに、きゆっと締まってくびれたヒロさんのお腹。
そこに頬をくっつけて真っ直ぐヒロさんの顔を見上げると、ヒロさんもまじまじと俺の顔を見下ろしていたらしく、一瞬目が合った後、ふと目を反らされる。
そんな照れた仕草もますます可愛い。

「ヒロさんが可愛い顔をするから、またしたくなりました。」

「また・・・って。」

「ヒロさんに触りたいです・・・。」

掛け布団をめくって素足のままの太腿を晒すと、そのなめらかな肌にそっと唇を押しつける。
平静を装いながらも小さく息を飲んだヒロさんの背中が僅かに震えたのが分かる。





また雨の勢いが強くなってきたらしい窓の外、遠雷の音が耳に届く。
天候のおかげで照明をつけていない室内は薄暗く、そのせいか今日は「昼間から盛るな。」とヒロさんから怒られたりもしない。

パジャマの裾から背中に手を差し入れながら、彼の香りを胸いっぱい吸い込んだ。

甘い、甘い、俺を誘ってやまない彼だけの香り。
その香りをもっと強く感じたくて、俺はヒロさんの体をシーツの上にゆっくりと押し倒した。

  

  ◇ おわり ◇



お題提供
『みんながヒロさんを愛してる』同盟様


おうちデート でした。

2009月6月24日〜2009月7月11日連載



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