『待ち合わせ』 |
『待ち合わせ』 夜勤明けで午前中に病院を出られた俺は、今にも駆け出しそうな早歩きでヒロさんとの待ち合わせ場所に向かっていた。 今日は日曜日で、ヒロさんはお休み。 いつもなら午前中たっぷりは寝直したり、ベッドで読書をしていたりとのんびり過ごす事の多い彼が珍しく外に俺を誘ってくれた。とりあえず近くのコーヒーショップで一緒に朝ご飯を食べてから・・・さあ、どこに行こうかな。 待ち合わせをしたのは、病院から徒歩5分の緑地公園内のベンチ。 ここはウォーキング用のコースや広めのドッグランが設備されていて、広くてキレイなので患者さんの散歩にもよく利用している。舗装されて緩やかに曲がりくねった遊歩道の脇には季節の草花がきちんと手入れされ咲いていて、業者さんに手入れを任せっきりの病院の花壇とは趣が違う。緑色に輝くカーペットに映える白詰草の清しい白さにヒロさんを思い浮かべた。 公園内の小さな池に面したベンチにヒロさんの背中を見つける。 彼はこちらを背にして池の方に向かってベンチに腰掛け、静かに手に持った本のページを繰っている。木々の隙間から零れる朝のやわらかな日差しを浴びて、色素が薄くもともと茶色い髪の毛がオレンジ色にキラキラ輝いて見えて、その横顔に思わず見惚れてしまった。 ヒロさんが一番綺麗なのは、俺の腕の中で、抱き締めてキスをして、感じやすい肌を暴き、理性をすっかり失くしてしまった状態で俺に貫かれて啼いている時・・・俺しか知らないいやらしくて可愛い姿・・・だと思っているのだけど、こんな風に外にいるヒロさんのキレイさに気がつく時、嬉しさと同じくらい何故か落ち着かない気分になる。 俺のヒロさんなのに、俺だけの彼なのに、他の誰かに見られてしまうのが嫌だ。こんなに目を奪われて動けなくなる程に魅力的な姿を衆前に晒さないで欲しい。 「ヒロさん。」 背後から近づいて行って声をかけると、すぐに本を膝の上に下ろして顔をこちらに向けてくれた。 「・・・よ。」 「お待たせしてすみません。」 「いや、こっちこそ悪かったな。夜勤明けで疲れてるだろうに・・・しんどくなったら早めに帰って寝たらいいから。」 「大丈夫です。昨夜は急患も少なかったですし、ゆっくり仮眠とれました。」 ヒロさんは優しい。 こういう時いつも一番に俺の体を気遣ってくれて、何よりも俺を優先してくれる。それが時々度が過ぎていて、困ってしまう事もあるのだけれど。 「遅くなっちゃいましたけど、朝ご飯食べに行きましょうか。この公園の北門出たところにコーヒーショップがあります。モーニングの時間は過ぎたけど、オープンサンドの種類がたくさんあって美味しそうでした。」 「美味しそうって、お前が食べに行った事がある訳じゃないんだな。」 「はい。たまに津森先輩が買ってきて食べてるんです。病院の食堂のメニューに飽きたとか言って。スモークサーモンとチーズのサンドイッチとか、アボガドとローストビーフのサンドイッチとか・・・美味しい美味しいって語るわりには俺に一口もくれないんですけど。」 「一口って・・・貰うなあんなヤツから。っつーかお前も物欲しそうな顔で見てんじゃねぇだろうな。」 「・・・物欲しそうにしてるかもしれません。実際美味しそうですし。」 何故かムッとしたヒロさんは読みかけの本を無造作にカバンに突っ込むと勢いよくベンチから立ち上がった。 「行こうぜ。話聞いてたら急に腹減ってきた。津森が食ってたヤツ全部買ってやるからガッツリ食え。」 遊歩道をすたすたと先に歩いていくヒロさんの半歩後ろを歩きながら、本人はきっと無自覚な対抗意識丸出しの背中が愛おしい。 大丈夫ですよ。俺はどんな時でも絶対にヒロさんが一番なんですから。 だいたいヒロさんが先輩に妬く、という図式が俺にはよく分からない。普段あまり好きという感情を表に出してくれない人だけに、そうやって可愛い嫉妬も対抗意識も愛されてるんだなぁと実感出来てとても嬉しくはあるのだけれど。 ああ手を繋ぎたいな。 肩を抱いたりしたら怒り出すだろうな。 午前中の公園はウォーキングや犬を散歩させる人で結構賑わっていて、こんな人目のあるところで、いちゃいちゃしたら後でどれだけ怒られるか分からない。 触れたくて仕方ない衝動を抑えながら歩く、二人の間の空間およそ20センチメートル。それより近くなれば俺が抑えられず、それより離れればヒロさんが不安になって振り向いてしまう。 光溢れる緑のトンネルをヒロさんと二人歩きながら、そんな計算をしていた。 ◇ おわり ◇ お題提供 『みんながヒロさんを愛してる』同盟様 ほのぼのデート でした。 |
2009月6月2日 |