『猫の首輪』 |
『猫の首輪 10 』 逃げられないように内股を両手で抱えられ、ピチャピチャと音を立てながら後孔の周辺を舐めまわされて、羞恥ともどかしさに身悶える。体の奥に、もっと確かなものが欲しい。野分の指で、野分自身で、荒々しく掻き回して欲しい。舌先の柔らかい愛撫ではこの疼きを鎮められなくて。 「いや・・・野分・・・っ。・・・っあ・・・。」 「嫌ですか?」 「・・・ちが・・・そこ・・・もう・・・・。」 意地悪な恋人の髪を両手で強く掴んで、顔を左右に振る。 涙が滲んで霞む視界の中で嬉しそうに微笑む野分の顔を見つめながら、やっと聞こえるような小さな声で呟く。 「・・・・ほ・・しい・・・。」 瞬きの弾みで目尻から頬へと涙がつたい落ちる。 太腿の内側を強めに吸った後、野分がベッドサイドに置いてあるローションのボトルを手に取るのが見えた。 どんなに切羽詰まっていても、どれだけ俺が焦れても、野分は決して準備の手順は省かない。 最初に俺からそう教えられたからか、それが野分の優しさなのか、十分過ぎるくらいに慣らされ拡げられ、柔らかく馴染むまで、根気よく弄り続けるのだ。 「っ・・・んん・・・・う・・・。」 指先で襞のまわりにローションを塗り拡げられ、その感触にビクリと膝を震わせると、その膝小僧にちゅっと口づけられる。 「ヒロさん、力・・・抜いていて下さいね。」 ずっと表面だけを擦っていた指先が少しずつ押し挿れられていく。 1本の指をじりじりと回すようにしてゆっくりと根本まで刺し込み入れると、しばらくそのまま動きを止められた。 むずむずする違和感に思わず力が入り、野分の指をきゅっと締め付けたと同時に引き抜かれる。 そこが弛緩するのを待って、再び指が入り込み、今度は内側でおいでおいでをするように指を体内で折られ、内壁を引っ掻くその指先が臍側に曲げられたその瞬間、背筋を強烈な快感が駆け上った。 「あっ!あああっ・・・・や・・・嫌ぁ・・・・。」 「・・・ここですか。ヒロさん、ここ気持ちいい・・・?」 「はぁ・・・あ・・・ああ・・・んんっ・・・!」 暴かれたポイントを何度も指で抉られて、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。 指の隙間からローションを直接注ぎ込まれ、それを野分の指が掻き回す度にぐちゃぐちゅと女のあそこみたいな音を立てられて、恥ずかしさにぎゅっと目を閉じた。 体内を掻き回す指が2本に増やされ、その圧迫感にまた指を締め付けると、今度はセックスの時のような動きで抜き差しを始められた。 「んっ・・・は・・・はぁ・・・・あ・・・のわ・・・。」 「ヒロさん、イイんですか?・・・気持ちいい?すごい・・・ここ、指を吸い込んでるみたいに締まって・・・堪らないです。」 「もう・・・いいから・・・野分、はや・・・く。」 「あと少し・・・・。」 スピードを増していく指でのピストン運動に啼く俺を宥めながら、野分は自分のものを片手で軽く擦りたて、器用にスキンをかぶせる。 「やだっ・・・も・・・イク・・・。」 「ダメ。ヒロさん、もうちょっと我慢して下さい。」 「あっ!いやぁああ・・・。」 野分の指が弾けそうになっていた俺のものの先端をぎゅっと掴んで、無理やりに堰き止められる。吐き出せなかった熱はそのままそこに残り、達けない苦痛にまた涙があふれた。 体内から引き抜かれた指の束の代わりに、硬く勃起した野分の男芯が添えられ、ぐっと腰を押し込まれる。たっぷりの愛撫で解されたそこは何の躊躇もなく太い楔を一気に根本まで受け入れていった。 「ああああ・・・・・ああ・・・ぅあ・・・。」 「熱・・・。」 「や・・・野分ィ・・・離し・・・・。」 「すごいです。ヒロさん・・・俺全然動いてないのに、中・・・蠢いてて・・・気持ちいい。」 感嘆の音を漏らす野分の声に、またズクンと下半身に熱が集まるものの、先端を握られたままでイク事が出来ない。 「野分・・・・野分・・・・やだ・・・いや・・・。」 「ゆっくり動きますね。大丈夫です・・・いっぱい感じて下さい。ヒロさんが恥ずかしくなくなるまで、今日はめちゃくちゃ、したいんです。だから、まだ我慢して・・・。」 ゆったりと腰を進める野分の動きに、焦れて俺自身の腰も揺れ始めた。より深く野分のものを感じたくて、反り返る背が戦慄く。 ◇ 続く ◇ 『猫の首輪 11 』 ◇ 野分side ◇ 俺はこれまで自分の人生に「愛の言葉」なんて無縁なものだと思って来た。 そう、ヒロさんという人に出会うまでは。 学校やバイト先で会う女性から好意を向けられた事も、付き合いたいという内容の告白をされた事も何度かあったけれど、自分から積極的に一緒に居たいなと思えた人はヒロさんが初めてだったし、バイト三昧で恋愛には疎いまま過ごしてきた俺にとって、言葉を駆使して愛を語る・・・なんて事はものすごくハードルの高い事柄だと思っていたのだ。 こういう時、言葉のプロである宇佐見さんであれば、もっと上手く、もっと簡単に、好きな人に胸の中の想いを伝えたり出来るのだろうな・・・と想像して、1人落ち込んだりもした。 宇佐見さんもプロだけど、言葉を専門に研究していて、なおかつ学生に師事しているヒロさんも言うなれば言葉のブロだ。 これまでヒロさんが読んで来た本の中で、文豪や有名作家の書く、数限りない優れた愛の言葉を彼は目にしてきただろう。 そんな彼に対して、俺が伝えられる愛の言葉はあまりにも稚拙だ。 「ヒロさん・・・好きです。」 「・・・あっ・・・あ・・・・のわ・・き。」 熱く潤んだ彼のなかに自らのものを穿つ時、いつも「このままひとつになれればいいのに」と思う。 これもまた陳腐な言葉だ。 ドラマや小説で何度となく耳にした事のあるありきたりの言葉だけど、彼の内部で味わう心地よさや体だけじゃなく心までもがあたたかくなるその時に俺の頭の中は、ヒロさんとひとつになりたい。溶けあいたい。そんな言葉でいっぱいになっていく。 「好きです。・・・ヒロさん、好き・・・。」 そして俺の口から吐き出される愛の言葉は、あまりにも幼くて、あまりにも簡単な「好き」という単語でしかない。 涙に濡れた頬に繰り返し唇を寄せて、俺の肩に縋り付くように回された彼の腕に引き寄せられる度に胸の中に嬉しさがこみあげてくる。 産まれて初めて愛したひと。 出会った途端に、このひとがいい、このひとじゃなきゃ嫌だ、と頭で考えるより先に体が動いた。 上條弘樹、という彼はこの世の中に唯一人のひとで、絶対に誰にもこのひとの代わりなど出来ない。 「好きです・・・。」 俺がそう呟く度に、ヒロさんの内部がきゅうっと締まる。 年上だけど、恐らく俺以上に恋愛下手で、しかも恥ずかしがり屋な彼は、愛の言葉をくれる代わりに何よりも素直な体で、俺の全てを受け入れてくれる。 だけど、きっとこの先・・・・彼が俺に愛される事に慣れて、俺を今よりずっと好きになってくれさえすれば、言ってくれるようになるかもしれない。 低くてよく響く彼の声で。 俺を好きだと、愛していると、言って欲しい。 「あ・・・いや・・・野分っ・・・も・・・やああっ・・・・。」 絶頂の手前で堰き止めているせいで、そそり立ったまま先端から愛液を滲ませたヒロさんのものが、俺の手の中で小さく脈打っているのが分かる。 「ヒロさん、俺のこと・・・好きですか?」 こんな状態のヒロさんに尋ねるのはズルイと自分でも思う。 「あ・・・あ・・・・・。」 「俺のこと、好きですか?」 快楽に潤んでいたヒロさんの瞳にゆっくりと正気の色が戻ってくるのが分かる。俺の目をまっすぐに見つめながらも少し困惑したような表情。そして次第に頬が赤く染まっていく。 みるみるうちに真っ赤になってしまったヒロさんは、数秒固まった後、こくんと小さく頷いて、そのまま俺の胸に顔を埋めてしまった。 「ヒロさん・・・!」 彼自身を握り込んでいた指先をゆっくりと解いて、片脚を抱え上げると一度腰を引いてから、一気に彼の最奥を突き上げた。 「アアアッ・・・!!」 突き上げた衝撃に、ヒロさん自身が勢いよく爆ぜる。 その全てを手のひらで受けて、そのまま彼に見せつけるように舌と唇で舐めとると、感じたのかいっそう締め付ける力が強くなった。 「いや・・・やぁ・・野分・・・ああっ!」 達したばかりで敏感な内壁を分け入り、ヒロさんが強く反応した部分を何度も抉るように突き上げ続けた。 ◇ 続く ◇ 『猫の首輪 12 』 ヒロさんと付き合いだして、今年で8年。 一緒に暮らし始めてからもすでに2年が過ぎた。研修医となった俺も、助教授として大学で教鞭を振るうヒロさんも相変わらず忙しくて、一緒に暮らしていてでさえなかなか思うように会えないでいるけれど、こうして夫婦同然の暮らしが出来るようになるなんて、付き合ったばかりの俺からしたら夢のような話だ。 昨日も終電で帰宅した俺は、シャワーで汗だけ流した後、先に自室で眠っていたヒロさんのベッドに潜り込んだ。 すれ違ってばかりで、なかなか生活パターンが噛み合わない俺達の間での暗黙のルールのようなもので、深夜に帰宅する事も多い俺の為に、ヒロさんはいつもベッドの半分をあけて眠ってくれている。 俺はパジャマで眠るヒロさんの体を後ろから抱き締め、まだシャンプーの香りの残る髪の毛に鼻を埋めた。 胸いっぱいにヒロさんの薫りを吸い込んで、柔らかい髪を撫でて・・・と俺が勝手にヒロさんを補給していると、腕の中のヒロさんがもぞもぞと体を回転させて、顔を俺の方に向けた。 ものすごく眠そうに睫毛を振るわせた後、ゆっくりと瞼が開いて俺の顔をじっと見上げる。 「・・・すみません。起こしちゃいましたね。」 「野分・・・?」 「はい。」 「・・・・ん・・おかえ・・・り。」 掠れた声でやっとそれだけ言って、すぐにそのままヒロさんは目を閉じてしまった。寝入り端で眠くて堪らないのだろう。俺の胸に額をくっつけて、すうすうと寝息をたてて眠るヒロさん。 三十路をむかえた人とは思えないくらいに、彼は今でも可愛らしい。 変わらないのは見た目だけじゃない。 ずっと一緒にいるうちに慣れて、もっと「好き」と言ってくれるようになるだろうと見込んでいた俺の予想は大きく外れて、10年近く付き合っていても、一緒に暮らしていても、ヒロさんの恥ずかしがり屋は治っておらず、「好き」の一言ですら言わせようと思ったら大変な苦労をしなければならない。 メールの返信もあいかわらず短い。 今日は遅いのか早いのか、帰れるのか無理なのか、俺達のメールの内容の殆どはそんな一見味気ない業務連絡みたいなものばかりだけど、その裏にはお互いに「顔が見たい」「一緒にご飯が食べたい」「起きている間にも抱き合いたい」・・・とそんな想いが隠されているって分かっているから『今日帰れるなら連絡をくれ』という、たったそれだけのヒロさんからのメールに彼の「会いたい」という気持ちを汲み取って、嬉しさにここが病院の食堂でなければ、携帯画面に口づけたいような気持ちにさせられるのだ。 あの日、闇雲に愛の言葉を欲しがった10代の俺はもういない。 「好き」という言葉を欲しがらなくても、ヒロさんはたくさんの愛を俺にくれる。 だから俺は彼のその想いをお返ししたくて、幸せな今の気持ちをちょっとでも多く伝えたくて、腕の中のヒロさんの寝顔に向かって小声で呟く。 「好きです。ヒロさん・・・大好きです。」 8年経っても、俺の愛の言葉のレベルは成長していないけれど、今はもうこれでいいんだって知っている。 気の利いた台詞も、彼を口説く数多の言葉も必要ない。 だって、そんなお粗末な愛の囁きでも、彼はちゃんと喜んでくれているって分かっているから。 「好きです。」 穏やかで幸せそうなヒロさんの寝顔に向けて。 昨日までの・・・・今日からの二人の日々に感謝しながら。 俺は繰り返し、愛の言葉を紡ぐのだ。 ◇ おわり ◇ |
2009月7月12日〜8月2日連載 |