『魅惑』  後編




2人はもう寝たんだろうか。

野分の体の大きさを考えると、2人で1つのベッドに寝かせるなんて、悪い事をしたかもしれないな。


リビングのソファに腰かけて、照明を落としたまま外から室内にさす月明かりをたよりに津森は煙草に火をつけた。

一息吸ったところで、ふとそういえばここの住人はどっちも煙草を吸わないんだった、と思い出す。

灰皿の代わりになる空き缶でも無いかと考えてキッチンに近付いたところで、それに気が付いた。


微かに聞こえる、すすり泣くような声。

甘く掠れ、途切れ途切れに洩れ聞こえる切ない響き。


それが、上條の部屋から聞こえる喘ぎ声だと頭が理解した途端、全身の毛穴が一気に開く程にゾクッと体が震えるのを感じた。


ま…まぁ、そうだよな何週間も帰れてないんだ、当然我慢出来ないよなぁ…などと考えながも、つい耳を澄ましてしまう自分が情けない。


上條さんって、あれだな。普段あんなにムスッとしていていつも不機嫌そうなのに、野分と2人っきりだと急にごろにゃんってなっちゃうタイプ?それともベッドで急に豹変するタイプとか?

まぁ、どっちにしろこんだけえっちに啼いてくれるんだったら、そりゃあ野分もメロメロになるってもんだよな。っつーか野分って、あんな清廉そうな顔して意外とむっつりスケベ?

などと、どうでもいいような思考ばかりがグルグルして、津森は手に持った煙草の灰をもう少しでソファの上に落とすところだった。

◇◇◇◇◇◇


 

「ん…んんっ…はぁ。」


ぐったりと崩れ落ちそうになる弘樹の体を野分は自分の腰の上に抱き寄せ、結合部が離れないように腰を掴んでぐっと突き上げる。


手淫だけで終わらせるつもりが結局野分が押しきる形でフルコースになってしまった。


リビングを隔てているとはいえ津森が泊まっているのに…と散々弘樹は抗ったが、久しぶりに触れた野分のぬくもりを手離したくなくて、流されたふりをする。


「声殺してるヒロさんって、可哀想なんだけど、…ごめんなさい、ちょっとそそられます。」


「…バカな事…。て…め。」


乱れる息を必死に整え、渇いた唇を舐める舌先を口づけで絡めとる。


「ヒロさん…ヒロさん…。」


うわ言のように繰り返し名前を囁く野分の肩に顔を埋めた弘樹の背中が小さく震えた。


「はぁ…は…あ……。」


声が漏れそうになる度に、肩に歯を立てて声を堪える弘樹の背中を優しく撫でながら野分はゆっくりと腰を揺らす。


いつもだったら、行為に没頭していくうちに我を忘れて、ひっきりなしに喘ぎ声を洩らしてしまう感じやすい彼が、苦しそうに唇を噛んで襲いくる快感に耐えている姿はいじらしく、野分は胸にどうしようもない程の愛おしさが満ちていくのを感じた。


本当はもう自分の部屋にいる先輩に何を聞かれていようと、どう思われようと、どうだって良かった。

そんな事よりも、今、腕の中にいる恋人をどうやったらもっと気持ち良くさせてあげられるのか、どうしたらもっと深く繋がりあえるのか、そんな事で頭の中はいっぱいだったのだから。


「や…あっ!」


浅く抜き差しを繰り返した後、ねじ込むように深く挿入すると、弘樹は全身を震わせて滑らかな背中を仰け反らせる。

熱く蕩けた内部は、弘樹が甘い吐息を吐く度にきゅうっと締まり、野分のものに強くきつく絡み付いてきていた。


「ヒロさんの中、火傷しそうに熱くて…どうにかなりそ…。」


「あ…やぁ…のわ…。」


膝の上に跨がった恰好で深く貫かれ、懸命にその肩にすがりつき、小さく喘ぐ弘樹の腰を両手で支えながら、野分はグチャグチャにローションやら弘樹の放った体液やらで潤したそこをひたすら掻きまわす。


「も…や…無理…声、出……。」


「いいんですよ。声出して下さい。聞かれたって構わない。」


「や…嫌…嫌だ…。」


両手で弘樹の柔らかい腰まわりの肉を左右に割り開き、更に奥深く体を進めていった。


「ああっ…やああぁ…!」


強過ぎる衝撃に弘樹が先に白濁を放つ。


絶頂の余韻にまだガクガクと震えている体を貫いたままベッドに倒し、両脚を胸の方に押さえつけて、体を二つに折り曲げるような形で上へのしかかる。


「ヒロさん、すみません。…俺、もう少し…。」


「ん…っ…ンン…。」


野分の体の下で、苦しそうに喉を鳴らしながら、目尻に涙を滲ませた弘樹が返事のかわりにコクコク、と首を縦に降った。


「かわいい…可愛いです。…ヒロさん。」


恥ずかしがって、いつもならなかなか見せてくれない悦楽に乱れた表情を眼下に見下ろしながら、野分は目眩がするくらいに心地いい、恋人の内壁に自らの熱を擦り続ける。

さっき達したばかりで、スキンの中を濁らせたままの弘樹のものが、律動する度に下腹に擦られて、それが感じるのか、揺す振られながら、激しく体をひくつかせていた。


「も…変…ああっ…や…やあぁ…。」


弘樹の目からボロボロと生理的な涙が零れ落ちる。

太股を押し上げ腰を浮かせると、繋がりあった箇所が野分の目前に晒された。

赤く充血した小さな入り口が無理やりに大きく広げられ、野分のものを根本近くまで飲み込んでいる。

ローションでしとどに濡らされて光るそこは時折ひきつるように震えており、野分の動きに合わせて引き抜こうとすればきつく締め付け、押し挿れられれば柔らかく緩んで、深々と野分自身を包み込んだ。


まだ自分が行為に慣れない頃には、ろくに慣らさずに無理に挿れようとして痛い思いをさせたり、逆に延々と弄り倒して、そのつもりは無かったのに焦らし過ぎて泣かせて後で怒られたりした事もあった。


ー7年。


どんなに会いたくても会えない時が殆どで、もどかしい思いを重ねてきた歳月だけど、確実に俺達はお互いの体に慣れた…いや馴染んだのだと思う。


俺の指先も、手のひらも、口唇も、舌も、性器も、ヒロさんが悦ぶようにしか動けないし、セックスに関しての知識も興味も彼にしか持っていないのだから、これまでも今後もヒロさんさえ求めてくれればそれでいい。


そして、初めて触れた時から感じやすくて、可愛かったこの人も、俺だけに抱かれ続けた7年間で俺のかたちに変えられてたらいいと思う。


もう今では何も言われなくても、どこを触って欲しがっていて、どんな風にされたいのか、考えなくても先に体が動く。


抱けば抱く程、ヒロさんのここは何の隙間もなく俺のものにぴったりと合わさり、合い鍵の様に俺だけを抱き止めてくれるんだ。


「…ああっ…い…イ…い。」


うっすらと汗をかいた胸元で固く尖ったそれを指の腹で丸く撫でまわし、きゅっと摘まみあげると甘い声が零れると共に入り口もビクビクと震える。


「ヒロさん…イイんですか。中、すごく…熱い。」


「あ…っ…言うな…。」


弘樹が恥ずかしがって普段はあまりしたがらない正面からの結合。

これだけ何度も果てて、激しく求められていても まだ羞恥が棄てられずに野分の視線から顔を背け続けている。


「…ヒロさん…俺、そろそろ…。」


野分の声が艶っぽく掠れ、限界が近い事を伝えた。


「ん…あぁっ…あっ。あ…あああぁっ!」


両膝の裏側を手で抱え上げ、ゆるやかだった律動が早く激しく変わる。


「はっ…はぁ…ヒロ…さん…。」


「あっ…ああっ…アアッも…やっ…また…またイク…。」


「いいですよ。何度でもイッて下さい…。ヒロさんが欲しいなら、いくらでもあげますから…。」


「やっ…あああああっ…ああぁ…のわ…き。」


弘樹の喉から甲高い叫び声が漏れ、必死に野分の背中に腕をまわしてきつくしがみついた。


「ヒロさん、そろそろ起きて下さい。遅刻しちゃいますよ。」


心地よい野分の声を遠く聞きながら夢見心地を漂っていた弘樹は、急に現実を思い出して、顔を押し付けていた枕からガバッと頭を起こす。


「…オイ、あいつは?」


「へ…?あぁ先輩ですか。先輩だったらもう帰りましたよ。始発も動き出したし、帰ってシャワー浴びて着替えの荷物詰め替えてから病院に戻りたいんだそうで。」


そうか、帰ったのか。

明日の朝、いったいどういう顔してアイツと顔合わせればいいんだろう…と心配していた弘樹は、ちょっとホッとして、もう一回枕の上に頭を乗せる。


「朝ご飯出来てますから、起きて食べませんか。」


「…ん。…何かダリィしもうちょっとしてから。」


「今日は学校何時からなんですか?」


「午後まで講義は無いし、教授も学会で明後日まで留守だから、今日はゆっくりでいい。」


ぐだぐだとベッドから出ようとしない弘樹の隣に野分が腰をかける。


「昨夜…体、辛くなかったですか?」


「かっ…体はどうでもいいよ。…そんな事より…その…アイツ、今朝何か言ってなかったのか?」


「俺もちょっと心配だったんですが、特に変わった様子無かったですよ。俺が起きた時には先輩ももう起きていて、普通に朝ご飯食べて帰って行きました。」


「…て事は、寝てて聞こえてなかった…って事か。」


「そうでしょうね。気付いてたら黙っていられるような人じゃないですし。」


寝癖のついた頭をぐしゃぐしゃと引っ掻き回して、複雑そうな表情をしていた弘樹に、野分が軽く口づける。


「心配いりませんよ。…気になるなら、またそれとなく先輩に確かめておきましょうか?」


「…へ?…い…いらねぇ!!って、お前どうやって聞く気だよ!まさか、夜ヤってる声聞こえましたか?なんて聞く気か、バカヤロー!」


「そう言われればそうですね。下手に尋ねて、じゃあ何してたんだって聞き返されたら、上手く誤魔化せる自信ありません。」


どさくさに紛れて、うなじに口唇を這わせる野分を手で押しやりながら、弘樹は大きなため息をつく。


「とにかく、俺は当分アイツの顔は見たくねぇからな!今度家に連れて帰って来たら、今度はお前もろとも追い出すから、覚悟しとけ!」


「ヒロさん〜。」


「さ、目も覚めたし、腹も減ったからメシ食おうぜ。」


まだ少し名残惜しそうな顔をした野分の頭をペシッと叩くと、弘樹はベッドから立ち上がってリビングへと向かった。


キッチンからは味噌汁のいい香りがしている。


「野分、味噌汁の具、何?」


「え?味噌汁の具ですか?…ほうれん草と油揚げですけど。」


「すげぇ美味そう。」


嬉しそうに食卓につく弘樹を見て、野分もようやくニッコリ笑って、味噌汁を温める為にコンロのスイッチを入れた。



 ◇とりあえず 終わり◇


おまけを読む(※特殊系注意)







作品解説

一度書いてみたかったつもりんのお話。おちゃらけたキャラなせいか、ギャグにならないように軌道修正するのが大変でした。
このお話での彼の役割は、世間一般の目・・・といったイメージだったのですが、本人自身も「男とか女とか気にしない。」と言っているあたり偏見はなさそうですね。
どうせならでばがめじゃないけど、二人のベッドシーンを盗み聞きしてもらおうと。
本当はもっと声を聞かれるのを嫌がるヒロさんとか、恋人の声を自分以外に聞かせたくないやきもち焼きさんな野分とかを書くつもりだったのですが、書いていくうちに二人ともやってる事に一所懸命でつもりんの事どーでもよくなっちゃってるし(笑)
可哀想だよね、つもりん。




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