『猫の首輪』

『猫の首輪 7 』

◇ 野分side ◇


新聞休刊日の前日、夜のバイトが終わった途端、俺は自宅とは逆の方向に向かう電車に飛び乗った。明日は早朝のバイトが無いから、ヒロさんとゆっくり過ごせる。出来れば泊まらせてもらって、恋人としての時間を過ごしたい。

もう何ヶ月も前からそのつもりで今日の日を楽しみに待っていたのだけど、実はヒロさんに今日行く事を一言も話していなかった。サプライズ的な意味あいもあるけど、本音を言えば「泊まりたい。」と言って「嫌だ。」と言われるのが嫌だったからだ。
極度の恥ずかしがり屋で、なかなか素直になれない彼に、下心丸出しで泊めろなんて言ったら、きっと断られるに違いない。年に限られた回数しかない休刊日というチャンスを無駄にしない為にも、出来るだけ断れない状況に持って行く必要があった。

最寄り駅で降りて、マンションの近くまで行ってから「これから行きます。」と言えば、時間も遅いし、帰れとは言われないかもしれない・・・そんな賭けのつもりで。

ヒロさんの部屋まで歩いて3分の場所から携帯にコールする。
ヒロさんが居てくれますように!
起きてくれていますように!

数回コール音が鳴った後、『はい』とヒロさんの声が聞こえた。





玄関のドアが開かれ、ひょっこりと茶色い頭が顔を出す。
俺の視覚が「ヒロさんだ。」と認識するよりも早く、我慢出来なくて思わず抱き締めてしまった。
来るなりいきなりこんな事をして、怒鳴られるかな・・・と少し覚悟していたものの、ヒロさんはあっけないくらい大人しく俺の腕の中でじっとしてくれていて、可愛いくて愛おしくて堪らなくなる。

抱き締めながら、ゆっくりとその背中を撫でると、微かにひくりと肩が震えた。
たったこれだけの事でも感じてしまうヒロさんの敏感さが好きだ。
俺の胸に顔を埋めたままでじっと抱き締められているヒロさんの様子に、俺の期待はどんどん高まっていってしまう。

「ヒロさん・・・会いたかった・・・。」

そうつぶやくと、ヒロさんが俺の顔を仰ぎ見る。丸く見開かれた目があんまりにも可愛いくて、俺は引き寄せられるようにその唇を奪った。

会えない間、繰り返し夢想したヒロさんの柔らかい唇。
舌で歯をこじ開ければ、おずおずと応えてくれる舌に自分のそれを絡みつけ、ヒロさんの口中に湧き出た甘い唾液を吸い上げる。

服の裾から手を潜り込ませれば、クーラーに冷えた肌が心地良くて、その肌をその躰を撫で回したくて、舐めしゃぶりたくて堪らなくなってくる。

こんなに顔を見るなり盛る俺の事を、ヒロさんは呆れてるんじゃないだろうか。
嫌われたくないと、心配で躊躇する自分と、彼が愛おしくて欲しくてどうしようもない自分とが胸の中で共生しているみたいだ。

片腕でその背中を引き寄せながら、もう片方の手を脇腹から胸へと滑らせ、小さく尖ったそこを指の腹で柔らかくつぶし、形をなぞるように指先で転がせば、小さな喘ぎが漏れると共にヒロさんの体が崩れ落ちそうになる。
咄嗟にその腰を抱き支えて、自分の腰にぴったりと密着させた。

ヒロさんが欲しい。

お前は会う度にそればかりか、と怒られたとしても、こうして直に触れれば我慢できる訳がなかった。

「ヒロさん、ヒロさん・・・。」

「やっ・・待って・・。」

待てない。ごめんなさい、もう無理です。
苦しそうに息を継ぎ、待って、と繰り返す彼の口を二度、三度とキスで封じ込めて、力の抜けた体を力任せに抱き寄せれば、このままここで彼を抱いてしまいたい衝動に駆られる。

欲しい、欲しい、欲しいーーーーーーーーーー

限界まで張り詰めた下半身の熱が放出する先を求めて狂おしいほど目の前の彼を求めている。

「野分・・・っ・・・。」

逆上せ上がった俺を制し、ヒロさんの両手が弱々しく俺の胸を押し返した。
それに気付いた俺は、瞬間彼に拒絶された気がして一気に目の前が真っ暗になってしまう。

どうして?ヒロさん・・・

慌てて体を引こうとすると、それに気付いた彼に服の胸元を引っ張られる。
そのまま俺の胸に顔を押しつけたヒロさんが、小さな小さな声で、ここでは嫌なのだと呟いた。ベッドに行きたい、と囁かれて、さっき冷えかかった体温が再び上昇し始める。

身長のわりに軽いその体を抱き上げてヒロさんのベッドに運ぶと、勢いのままヒロさんの服の上を脱がして、自分も上を脱ぎ捨てると、裸の肌と肌を重ね合わせて彼の上に乗り上げた。

「ヒロさん!ヒロさん!」

無我夢中で全身をまさぐり、その胸元に顔をすり寄せる俺の後頭部に、ヒロさんの手のひらが優しく添えられる。


  ◇ 続く ◇


『猫の首輪 8 』


月に何度も会える訳じゃないから、こうしてやっと顔を見れたが最後どうしても触れたくなるのを抑えられずに直接的な愛情表現しか出来ない俺を、ヒロさんはどう思っているのだろう。
まさか体目的で付き合っているとは思われていないだろうか・・・と心配になったりもする。
ヒロさんは姿かたちもすごく綺麗で、服を脱いだら更に綺麗な人で、感じやすい体も抱いた時の気持ち良さもそれはそれは魅力的ではあるんだけど、もちろん好きなのはそれだけが理由なんかじゃない。
じゃあ、ヒロさんはどうして俺に付き合ってくれているんだろう。
体目的?・・・いや、それは自信過剰ってものだろう。
経験も浅く、ヒロさんのように眩しい程きれいな体な訳でもない俺をセックスだけで認めてもらえると思う程図々しくはなれない。
じゃあ、何故だろう。
しつこい俺に流されているだけ?

少し前まで恐らくヒロさんは宇佐見さんの事を好きだった。
2人の間に幼馴染み以上の関係があったかどうか定かじゃないし、自分から「聞かない」と言った手前、聞く訳にもいかないから想像する以外ないのだけれど、少なくともヒロさんは宇佐見さんを好きだったのは間違いない。平然とした宇佐見さんの様子から推測するにはヒロさんの一人相撲だったのかもしれないが、いったい何年・・・どれくらいの長い間、宇佐見さんの事を好きだったんだろう。
初めて俺と出会った公園で、人目もはばからずきれいな涙をぽろぽろと零していたヒロさん。
アパートを尋ねて来た宇佐見さんに頭を触られて泣き出しそうになっていたヒロさん。
勝手に「もらいます」宣言なんてして、奪ってしまったけれど、ヒロさんは今でも宇佐見さんへの想いを断ち切れていないんじゃないだろうか。

そんな風に考えると、こうして肌に直接触れていても胸が張り裂けそうになる。

この人は俺のものなんです。
だから触れていいのも俺だけなんです。

そんな風に大声で叫びたくなる。

所有の印に名前を書いておく訳にもいかないし、だいたいヒロさんの意志を思えば、勝手に「俺のもの」よばわりをされるのは我慢ならないかもしれない。

ベッドの上で唇を重ねる俺の首にヒロさんの腕がそっと回される。
不安な俺の心を見透かすみたいに、今日のヒロさんは優しい。

会えない時間、あんなに苦しくて、寂しくなれば携帯の写真を眺め、メールを繰り返し読んでいたのだから、やっと会えた今は幸せで堪らないはずなのに、会えて抱き締める事が叶ったら、今度は心まで欲しくなる。

ヒロさんの1番になりたい。
誰よりも何よりも優先してもらえるような存在になりたい。

その為には今の自分じゃあ全然だめなんだ。
ヒロさんに頼って、甘えて、そんな男じゃ、大切なあなたを守り通せない。

医者になって、社会的にもヒロさんにも一人前の大人として認められたくて必死に勉強した。バイトをしながら文字通り寝る間も惜しんで勉強した。
頑張って合格し晴れて医大生にはなれたけれど、ただそれだけだ。
医学を目指す者としてスタートラインに立つ権利をやっともらえた程度に過ぎない。
これからもっともっと努力を重ねて、実際に医者になれたとしても、ヒロさんが俺を認めてくれるかどうかすらも分からない。

「・・・ヒロさん・・・ヒロさん・・・・!」

繰り返し名を呼び、強く抱き締める俺の腕の中で、ちょっと悲しそうな顔をしたヒロさんがゆったりと長い睫毛を伏せる。

無防備に俺に身を預けてくれようとするヒロさんを見る度に、嬉しさと心配の両方が胸に沸き上がってくる。
ヒロさんも俺を欲しいと思ってくれているのかな、という期待と、受け入れる方はきっとすごく体に負担になるこの行為を俺の為に我慢していたりはしないだろうか・・・という心配。

その艶やかな肌にキスを降らせる頃には、ヒロさんの体も準備が整っていて、素直な体の反応で嫌がってる訳じゃないって事は分かるのだけれど・・・・。

「好きです・・・ヒロさん・・・・好きなんです。」

腰を擦り合わせれば切なくなる程、お互いの熱が高まっていると知れるのに、ヒロさんの気持ちが見えない俺は・・・迷路に迷い込んだみたいに同じところをぐるぐると彷徨うばかりだ・・・。


 ◇ 続く ◇



『猫の首輪 9 』


◇ 弘樹side ◇


あっという間に下着ごと部屋着を上下共脱がされ、野分の眼前に素肌を晒された。
まだ触れられもしないのに、兆しかけている俺自身を掴まれ、上下に擦られて、小さく吐息が漏れる。
自分で触れるのとは全然違う、野分の手のひらの熱と指先の動きに意識が集中するのを止められない。

「んっ・・・ふぁ・・・あ・・・。」

俺の表情を確かめるように顔を覗き込みながら、どこか恍惚とした顔で手を動かしている野分の様子に煽られて、俺も野分の張りへと手を伸ばした。
ジーンズの上からでもはっきりと分かる変化が嬉しくて、硬い生地の上からそっと撫で上げると、それだけでまたぐんと大きくなったのが感じられた。

「・・・・ヒロさん・・・。」

「お前も・・・早く、脱いじまえ。」

一旦俺の体の上から降りて下を脱ぎ捨てた野分が、余裕のない表情で再び体の上へとのしかかってくる。

どちらからともなく互いの熱に手を伸ばし、熱くなったそれを手の中へと収める。俺が握りやすいように野分は体を半身にして俺の脇へと体を伸ばした。

2人、無言のまま貪り合うように手を動かし続ける。
俯いた俺の前髪にかかる野分の吐く息が熱い。

俺のものを擦っていた野分が、ふいに俺の腰を引き寄せると、俺の手の中でパンパンに膨れあがっている野分の屹立と俺のものとが野分の手の中で摺り合わされる。

「ああっ・・・あっ・・あっ・・・・。」

2本の熱塊を同時に扱かれ、互いの熱さ、硬さに、体の奥の方が疼いてくる。

「ヒロさん・・・!んっ・・ん・・・イイっ・・・。」

「やあっ・・・野分・・・嫌っ・・・熱・・イ・・・・・。」

だんだんとスピードを増していく野分の手の動きに嬲られて、俺は為す術もなく全身を震わせて野分の手の中に欲望を吐き出した。
それを追いかけるようにして、野分もそこに自らの精を放つ。

しばらく俺の肩口に顔を埋めたまま、息を整えていた野分がゆっくりと上体を起こし、そっと手のひらを開いてみせる。

「俺とヒロさんのが混ざり合ってますね・・・。」

その手の平を汚しているものはさっき互いに吐き出した情熱の残滓で、野分の言う通りどれがどちらのものかまるで分からないくらいに混ざり合って、どろりと指の隙間を伝い流れ落ちている。それを野分はうっとりと眺めながら、ティッシュで拭い取った。

一度放出すれば、多少熱が冷めるのが常だというのに、一向に俺の体の中に渦巻くじくじくとした疼きはおさまらず、息がごまかせないくらいにあがってしまって、唇を噛んで、俯く角度を更に深くしてしまっていると、そっと抱き寄せられ、口づけられた。

「大丈夫ですよ。俺もまだ全然足りないです・・・。」

唇をもう一度軽く吸った後、そのまま野分の唇が胸元へと降りていく。
左右のしこりを交互に強く吸われて、その刺激がダイレクトに腰の奥の方へと響いてくる。

こんなんじゃ足りない、もっともっと欲しい。
野分に会えない間にカラカラに渇いてしまっていた心も体も、野分に早く潤されたがって、どうしようもない程。

「・・・・野分・・・。」

早く、早く、早く。

焦れて両膝を擦り合わせていた俺の様子にようやく気付いたらしい野分が、嬉しそうに顔をほころばせた後、俺の膝を割って両脚の奥へと深く顔を埋めていく。

「ああっ・・・あ・・やっ・・・・。」

指先でくいっと開かされた奥の窄まりにぬるりとした舌先の感触を感じて、思わず声が漏れる。
何度そうされても慣れなくて、恥ずかしさに脚を閉じようとしても野分の手はびくともしなくて、抵抗した分更に大きく足を開かれてしまった。


  ◇ 続く ◇


2009月7月12日〜連載中


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