『新月』

「ん・・・っふぅ・・・ふあ・・・・。」

ソファに浅く腰かけ、脚を軽く開いた野分の膝の上に向き合う形で跨る。
野分の指で根気よく解され、ぬるぬるしているそこに、完勃間近の野分の丸い先端が添えられた。俺は片手の指で自分の奥を割り開くとその中へと野分自身をゆっくり飲み込んでいく。

若返って膨張率が上がった野分のものに苦しめられたのはいつの事だったか。
完全に勃起させてから入れようとするのがそもそもの間違いで、ある程度硬くなった状態で先に挿れてしまえばいい。その後で大きくなってしまっても、入口よりは余裕のある体内で受け止めれば耐えられるのだと思いついた。

自身の体重によって、ぐっ・・・ぐっと狭壁が広げられていく感覚にきつく閉じた瞼の裏がチカチカしてくる。

「ヒロさん、大丈夫ですか? すごい・・・きついですよ・・・。」

「・・・いっ・・・いいか・・・らっ・・・。」

それだけ配慮しても俺を限界まで苦しめ、悦ばせる、熱い高まり。
痛くたっていい。どんなに辛くても構わない。俺を引き裂くようなその存在感で、ちゃんとお前がここにいるのだと俺の体に教えて欲しい。

瞬く間に硬度と大きさが増していくのを体の内側に感じ、心配そうな顔で俺を見上げる野分の頭を強く掻き抱いた。髪の毛をくしゃくしゃと指に絡め、痛みを逃す為に短い息を繰り返す。

「ヒロさん・・・・・っ・・・。」

手加減なしに抱き返してくる野分の腕の力強さ。耳元にかかる熱い吐息。俺を呼ぶ野分の声。

意識がふわりと漂い、肉体を離れそうになる度にぐっと唇を噛んで耐える。
野分が俺にくれる何もかも全て、全身で受け取りたい。

忘れるな、俺。
これが野分の声。野分の熱。野分が俺に与える幸福な痛み。
神経の全てを総動員して、俺は野分を貪る。

なあ、野分。お前も忘れんな。
こんなに必死になって俺を抱いてくれた事。
俺がこんなに・・・こんなにもお前だけを、愛しているという事を。

「あっ・・・あああ・・・ン・・・ああっ・・・。」

ソファについた膝に力を込めて、繋がった部分をゆっくりと上下させる。
ぎゅっと締めつける度に、切なくよせられる野分の眉に唇を押し付け、額に頬を擦り寄せた。

「ヒロさん!・・・ヒロさん!・・・・ヒロさ・・・・。」

下から激しく突き上げられる衝撃に、耐えるべくすがりつく両腕に力を込めた。

野分・・・野分・・・野分・・・・

俺の中はお前であふれそうになっているのに、体の奥の方から「もっと、もっと。」と際限なく何かがこみ上げてきてどうしようもないんだ。

「ああっ!・・・・野分っ・・・・・。」

俺がその名を叫んだ瞬間、体の内側で熱い飛沫が勢いよく弾ける。
俺もそれを追うように達し、全身が震えるようなエクスタシーに痙攣する体を止められない俺を野分は力いっぱい抱きしめてくれた。

 

 

幸せな疲労感に包まれ、抱きあって眠った翌朝・・・・・目覚めた俺は、目の前に横たわり安らかな寝息を立てる少年を、とても静かな気持ちで見つめていたんだ。

 


身長は俺と、そうは変わらない。
表情の幼さから考えたら・・・10歳・・・くらいか、まあいってても12歳ってところか。
小学生にしてはデカイよな、やっぱり。

初めて見る小学生くらいの野分。
利発そうで、心も体も健康そうで、それでいて年齢にそぐわない落ち着きのある不思議な子供。

俺は野分の為に慌てて買いに行ってきた、小さな下着や服、靴下を次々開封しながら、まじまじとその姿に見入った。

「ヒロさんが何だか大きく見えて、変な感じです。」

小さな野分は照れ臭そうに笑いながら、買ってきた着替えに袖を通している。

 


さすがにもう誤魔化せる段階ではない為に、病院には休職願いを出させた。「迷惑をかける事になったら嫌だから辞めさせて欲しい。」と言う野分を「もとに戻った時に無職でどうすんだ!」と怒鳴りつけて、無理やりに納得させた形で。

野分は自分がもう二度と戻れないと思っているんだろうか・・・と一瞬目の前が真っ暗になったものの、俺が弱っててどうすんだ、と気持ちを奮い立たせて、必要な手続きや連絡すべき人や部署への連絡は一通り済ませてきた。

「どうする、野分。夢の大型休暇だな。」

「これでヒロさんも一緒なら最高なんですが。」

「バーカ。そんな事してたら二人してホームレスだぞ。」

「だから我慢して家で主夫しています。ヒロさん、しばらくの間養って下さいね。」

「・・・おう!まかせとけ。」

パーカーにジーンズに着替え終わった野分の頭をポンポンと撫でると、奴は嬉しそうに笑ってみせた。

しかし、本当に大変なのはこれからだ。
今日これから、ここに津森が来る事になっている。
急な休職願いに、野分の指導医として責任もある津森がその理由も聞かないで「はい、そうですか。」と納得してくれる訳がなかった。今日ここで本人と直接面談してその結果によって休職の届けを受けるか突き返すか考えさせてもらうから、という返答に、俺達は奴に全てを見てもらおうと決心した。
津森の性格を考えればそれ以外に方法はなく、そして出来れば医者である津森に一度野分を見てもらいたかった・・・という俺だけが考えている理由もあって。

「先輩、そろそろ着く頃ですね。」

「ああ。・・・・仕方ない、コーヒーでも淹れてやるか。」

津森はこんな姿になった野分を見て、すぐにそうだと気付くだろうか。いや、それよりこんな荒唐無稽な話を本気にしてくれるんだろうか。
秋彦はすぐに話を信じてくれたけど、それは職業柄柔軟な頭や想像力を持ち合わせているからなのかもしれない。医者という最も空想やオカルトとは対極にありそうな職業である津森だけに、説得するのにはかなりの時間を要するかもしれない。

「・・・来たみたいですよ。」

チャイムの音に俺は1人玄関へと向かった。
野分と会わせるのはとりあえず俺の口から説明し終わってからの予定だった。話をしている間、野分は自分の部屋で待っていてもらう。

「・・・・はい。」

玄関のドアを開けてそっと顔を上げると、いつものおちゃらけた顔とは全く違う、真剣な・・・そして怒りを滲ませた顔で奴は立っていた。

「お久しぶりですね。上條さん。」

「本当に・・・この度は・・・迷惑をかけて申し訳なかった。・・・それと今日は来てもらって・・・感謝してます。」

「嫌だなぁ。そんなあなたが頭を下げる事ないでしょー。らしくないッスよ、頭あげて下さい。」

深く下げた頭をゆっくりと上げると、柔らかな笑みを浮かべた津森が「これ手土産。」と小さな紙袋を差し出してみせた。

「どうしたんです?野分はどこに・・・・。」

リビングへと通された津森は無遠慮に部屋中を見回し、後ろから付いて来た俺を怪訝そうにふり返る。

 

 


「・・・そういう事ですか。」

「こっちからこんな話ふっておいて変な言い方だと思うんですけど、信じてもらえるんですか。」

「まあね。何も物証のない状態でこの話聞いてたら、とうてい信じられる話じゃないッスけど、先週までの野分の姿を見てるんで・・・。」

「え・・・・。」

「他の人間は騙せてても、俺は無理です。先週アイツ、明らかにガキっぽくなってたでしょう。」

 


「・・・・気づいてたんですね。」

「俺は、ね。・・・でも他の病院関係者や子供たちにはバレてなかったんじゃないのかな。」

確かに勘の鋭そうな津森なら無理ないか。
野分は出会った頃から大人びていて、顔もほぼ完成されていたけれど、出会った頃と今とでは表情がまるで違う。人から好かれる、まわりに人を惹きつける雰囲気は同じであっても、誰かから寄せられる好意をぼんやりと受け流していた10代の時の野分と、好意を向けられた時、きちんと真摯に受け止め、時に喜び、時に戸惑い、嬉しいという感情を素直に顔に出せるようになった今の野分とでは、きっと人としての魅力も格段とアップしたんじゃないのかな・・・なんて思う度、嬉しいような、自分以外にもその優しい表情を向けるのかなと思うと寂しいような気持ちになるのだ。
10代の野分に戻っていたせいか、こんな異常な出来事に気持ちも塞ぐのか、こういう事になってからの野分は、無意識の時あきらかに無表情で、正直心配していた。
「何考えてんのかわかんねぇ」
と思いながら当時の俺が見ていた、野分の横顔・・・それをまた見る事になるなんて。懐かしいような、切ないような、多分俺しか知らない感情を抱えて、この一週間を過ごしてきた。

「最初は全然気づかなかったんスよ。急にマスクで顔隠して出てきて、普段風邪なんかひいてんの見た事なかったし、アレルギーもないって聞いてたのに変なやつだなーと思ってて。でもそのうちやっぱりマスクがうっとおしくなってきたんでしょーね、取って普通に仕事してました。そしたら、『あれ?こいつってこんな顔だったっけか?』と思う程、何かが決定的に違う。俺が感じてる違和感をまわりの人間は感じていないみたいだし、かといってしゃべってみれば普通にいつもの野分だし・・・で、不思議だったんスけど、今日上條さんから話を聞いてやっと違和感の理由がわかりました。」

「見ていてそんなに違いますか。」

「中身と外見がちぐはぐしている感じが一番気持ち悪かったかな。そうか、外見だけ10代に戻っちゃっているから・・・。」

「当時のあいつを知ってる俺でも変な気分だったし・・・。」

「・・・で、今はもっと・・・進んじゃったんで・・・?」

「・・・多分10歳かそれくらいじゃないかと思います。」

俺は言葉を区切ると立ち上がり、野分の寝室のドアをそっと開けた。
部屋の中では幼い野分が所在なさそうにベッドに腰掛けていて、俺と目が合うとニッコリ笑いかけてきた。

野分を連れてリビングに戻った途端、津森の目が見開かれたのが分かった。
無理もない。17歳の頃ならばよく見ないと分からない程の違いだったけれど、10歳の今では体は大きいもののまるで子供だ。

「これは・・・また予想以上に・・・。」

「先輩・・・・。」

「うっわ、変な感じ!こんな子供から先輩よばわりされるのも変だけど、何が変って声が高っ!」

「仕方ないじゃないですか。子供なんだから。」

「・・・・っつーか、でかいなお前。ちょっと見だと子供だとは思えないもんな。何、お前この年ですでにこんなデカかったの?」

「はい。結構あっという間に子供服が着れなくなって、着るものに困ってたんです。小さいサイズなら園にもたくさんお古があるんですけど、そんなに大きなサイズの服は全然置いてなくて・・・。」

野分の言葉にちょっと驚いた。
こいつそんな事情まで津森に話してあったんだな。

野分は俺にも殆ど子供の頃の話をしない。
出会った日に事情はあらかた聞いていたし、草間園の園長さんとは何度か電話で話した事もあるけれど、やっぱり俺から色々聞くのも悪い気がするし、いつか野分が自分から話してくれる日が来ると思って何も聞かずに今日まで来たのだ。

指導医という立場上、こいつの書類とか目にする機会があったせいかもしれない・・・と思いつつ、正直何だか少し悔しかった。

「それにしてもデカイわ、口調はオッサンだわで可愛くないガキだなー。」

「別に先輩に可愛いなんて思われなくていいです。」

野分は細長い手足を余らせ気味に床に直接ペタンと座り込むと、傍に突っ立ったままの俺を振り返りまた笑ってみせる。


「・・・まあ、実際に目で見て話聞いて納得したよ。休職願い、ちゃんと上にあげてやるから安心して早く戻って来い。」

「・・・・・・はい。」

「その・・・津森・・・さん。」

「何です?・・・ああ、別に上條さん、俺の事は呼び捨てでいいっスよ。あなたなら。」

初対面が最悪だった分、最近は少しずつこの男の事を見なおしてきていたのに、意味ありげに腰に手を回されて、カチンとくる。
何だ、コイツ。
前は野分にベタベタくっついといて、今度は俺かよ。っつーか、からかわれてんのか?また。この期に及んで? 人がこんだけ悩んで、心配して、藁をもすがる気持ちでコイツに相談しようとしたのに、大間違いだったのか?!

「ホント、面白い人だな。あなた、口に出さずに頭の中で色々ぐるぐる考えこんじゃうタイプでしょう。しかも表情見てたら考えていることがダダ漏れっスよ。ほら、真っ赤になった。図星ってところかな。」

「先輩!ヒロさんに触らないで下さい!」

「ハハハハ。怒っても今の野分じゃ全然迫力ねぇなぁ。腕なんか全然細っちいし。」

津森の言葉と行動に一瞬ムッときたものの、さっきまで張り詰めていた部屋の空気がいっぺんに和らいだのが分かった。
今朝からずっと表情が硬かった野分が、コイツの冗談に怒ったり笑ったりしているうちに、自然と解けていくのが感じられる。

そうだ、今の俺達に必要なのは二人きりで部屋に閉じこもって、未来を恐れ嘆く事ではなく、出来るだけ風を入れ替えて、ちゃんとした日常をおくることでどんな結果が待っていようとも受け止められる力を蓄えておく事だ。

俺が迷ったら野分が困る。

本当は誰よりあいつ自身が不安なはずなのだから・・・・。

それにしても・・・津森、コイツって、チャラチャラいい加減な事ばかり言うのって、もしかして計算・・・なのか? 人を油断させて懐に飛び込む為の処世術・・・だったり?

「あ、上條さん。こいつ今こんなでアレでしょ。夜の相手は無理だろうから・・・。困ったら俺いつでも喜んでお手伝いしますから。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「先輩!もう用は済みましたから帰って下さいよ。それ以上ヒロさんに失礼な事言うんだったら、俺・・・・。」

・・・・前言撤回。コイツただの阿呆だ。

 

 


津森が帰った後、俺は大量に持ち帰った仕事を片付けるべくリビングに資料の山を移動させる。いつもなら仕事を二人の共有スペースに持ち込むような事はしないが、今日は何だか野分が気になって部屋に籠っていた方が心配で集中出来そうにない。

あの後、津森に一通り体に異常がないか確認してもらって、医学的にはまったく問題なかった野分は、キッチンで客用コーヒーカップや皿を洗っている。
身長こそ無駄に高いけど、肩も手足も細くて・・・出会った頃の野分になるまでには、中学卒業後の鬼のようなバイト生活・・・あれがないとダメなんだな、きっと。
なんて事考えながらぼんやり野分の背中に見惚れていた俺と、洗い物が終わってふり返った野分の視線が思いっきりぶつかる。

まっすぐに見つめ返されて、恥ずかしくなった俺はそおっと視線を外して俯く。

いや、おかしいだろ。
何小学生にガン見されて照れてんだよ、30歳前のおっさんが!
普通に考えたらビョーキだぞ、それ。




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